低迷続くフェラーリ、経営陣入れ替えの可能性

シンガポールGPを迎えたフェラーリは、かつての栄光からは想像できないほど深い停滞に陥っていた。
2台がポイントを獲得したにもかかわらず、それは前進ではなく、むしろ“衰退の現実”を映し出す結果のように感じられた。
愛犬ロスコーを亡くしたばかりのルイス・ハミルトンにとっても、この週末は沈んだものとなった。
「ここ数日は本当に厳しかった」と語る彼の言葉には、わずかな希望と大きな無力感が入り混じっていた。
パドック内の空気は一致していた──「このままではいけない」
そして今、フェラーリの経営トップであるジョン・エルカーン会長を中心に、チームの方向性を立て直すための大規模な人事刷新が検討されているという憶測が高まっている。
苦闘を象徴した週末
フェラーリの今季は一貫性の欠如に苦しんでおり、シンガポールGPも例外ではなかった。
前戦バクーでの8位と9位という失望の結果から勢いを取り戻したいチームだったが、再び同じ課題を抱えたまま週末を終えることとなった。
予選からその兆候は現れていた。ルイス・ハミルトンとシャルル・ルクレールはいずれもQ3進出を果たしたものの、上位陣に挑むには力不足だった。
ハミルトンは6番手、ルクレールは最終コーナーでのミスにより7番手に終わった。
「タイヤを適正な温度に持っていくのに苦労した」とハミルトンは語り、ルクレールも「本当に厳しいセッションだった。全てをうまくまとめられなかった」と振り返った。
決勝では一時的に希望が見えた。スタートでルクレールが5番手まで浮上し、ハミルトンは7番手をキープ。
しかし、ミディアムからハードへの保守的な戦略が裏目に出る。
ルクレールは早めのピットインで10番手まで後退し、再び挽回したものの、メルセデスのキミ・アントネッリに太刀打ちできなかった。
一方のハミルトンも、終盤に中古ソフトタイヤでアタックを仕掛けたが、ブレーキのオーバーヒートで追撃を断念。
結果、ルクレールは6位、ハミルトンはトラックリミット違反のペナルティにより7位から8位に降格した。
ルクレールはレース後にこう語った。
「本当に難しいレースだった。週末全体を象徴していると思う。金曜からマシンのフィーリングを掴めず、トラフィックの中では前に出ることもできなかった。冷却の問題も解決しないといけない」
ハミルトンは明るい面を見つけようとした。「レースの終盤は強さを見せられたと思うけど・・・」と彼は続けた。「ブレーキの問題でチャンスがなくなったよ。最後の15ラップで、ブレーキを過熱させてしまったんだ。オースティンからは週末全体を通して安定した速さを取り戻したい」
「勝てないフェラーリ」を映す現実
シンガポールは壊滅ではなかったものの、今のフェラーリの立ち位置を如実に示す週末だった。
かつて勝利を争っていた名門チームは、今やトップ勢の中で存在感を保つのがやっとになってしまっている。
レースごとに繰り返されるのは同じパターン──ポテンシャルの片鱗を見せながらも、小さな判断ミスや戦略のズレ、そして慢性的なオーバーヒート問題によって結果を逃す。どの部門も「あと一歩」が足りず、その積み重ねが現在の成績に直結している。
グラウンドエフェクト時代の開幕以降、フェラーリは真のタイトル候補とは呼べない状態が続いている。
7度の世界王者ハミルトンの加入や有能なエンジニアの補強にもかかわらず、チームは依然として迷走しており、進むべき方向性は下り坂を描いている。
経営陣の動き──ホーナー接近の噂も
パドックの内部では、チーム上層部の大改革を検討しているとの噂が広がっている。チームに近い情報筋は、エルカーンがフェラーリの競争力を回復するための抜本的な人事変更を検討しているとのことだ。
ある内部関係者によると、エルカーンは「すでに代替案を模索しており、そこにはクリスチャン・ホーナーを含んでいる」
ということだ。
レッドブル関係の法的トラブルを静かに収束させた彼が、フェラーリの新体制に加われば、チーム運営の哲学そのものが刷新される可能性がある。
もしそれが真実なら、それは大博打だ。フェラーリは再びトップエンジニアや有力ドライバーを引き寄せる魅力を取り戻すだろう。
そうなれば、ルクレールは、将来について改めて考え直さざるを得ないかもしれない。
特に、ハミルトンが現在の契約を終えたタイミングで引退を選ぶ場合、その影響は大きいだろう。
また、「フェルスタッペンがホーナーを追ってマラネロ(フェラーリ)に移籍する」という話は現実的ではないものの、そうした噂が出ること自体が、フェラーリが過去の栄光を取り戻そうと必死になっている証拠でもある。
ただし、フェラーリにとってより現実的なのは、“次世代のチャンピオン候補”を獲得することだろう。
もしホーナーが本当にフェラーリに加わるなら、その新星をチームに引き入れる上で、極めて重要な役割を果たす可能性がある。
現時点ではフレデリック・バスール代表が引き続きチームを率いており、契約も延長されたばかりだ。
しかし、F1の世界では「契約延長」が必ずしも安定を意味するわけではない。
成績が低迷し、チーム内の力関係が変われば、立場は一瞬で揺らぐ――それがフェラーリの現実でもある。
オースティンへの道──立ち止まるか、動き出すか
今のフェラーリが抱える問題は、技術だけでなく“フェラーリブランド”そのものにも関わる。
開発力、実行力、そして長期的なビジョンのすべてでライバルに後れを取っている。
「ハミルトンによるシューマッハ2.0時代」という夢は遠ざかり、今や表彰台すら現実的な目標ではない。
次戦オースティンに向けて、チームは選択を迫られている──慎重な小改良を続けるか、それとも抜本的な変革に踏み切るか。
そしてマラネロを包む噂の数々は、すでに後者の可能性を示している。
昨年のアメリカGPのダブル優勝の再現は、ほぼ不可能に近いだろう。
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