角田裕毅、混乱のサンパウロで露呈した課題―レッドブルは答えを求めて
角田裕毅がサンパウロに到着した時、すでに何かが噛み合っていない雰囲気が漂っていた。誤った案内板に導かれて間違ったターミナルへ向かい、空港内を1人でさまよう彼の姿がカメラに捉えられたのだ。小さなハプニングにすぎなかったが、大きな話題となった。そして、それは後に続く週末を象徴する予兆となった。
角田とレッドブルにとって、ブラジルGPはフラストレーションの連続だった。バランスを欠いた状態でスタートし、そのまま立て直しきれずに終えてしまった。
始まる前から崩れていた週末

警戒すべき兆候は早い段階から表れていた。予選前にわずか1回のフリー走行しかない中で、レッドブルは完全に迷走状態に陥った。角田もマックス・フェルスタッペンもグリップとバランスに苦しみ、土曜日の予選はチームにとって近年でも類を見ない壊滅的な結果となった。フェルスタッペンはQ1で敗退し、角田は実質最下位に沈んだ。
テクニカルディレクターのピエール・ワシェ氏は、後にその深刻さを認めている。
「すべてを再構築するしかなかった。完全なリスクだった」
レッドブルは一晩でRB21を解体した。古いフロア設計に戻し、空力を再調整し、フェルスタッペンには新しいパワーユニットを投入した。これは金銭的にも、コストキャップへの影響においても重い負担を与える決断だった。しかし、その賭けは成功。日曜日、フェルスタッペンのマシンは別物になっていた。
結果は驚異的だった。ピットレーンから3位への快進撃は、フェルスタッペン自身も「この結果が可能だとは信じていなかった」と認めるほど強力な復活だった。
ただし、タイトルが遠のき、ランド・ノリスに49ポイント差をつけられた今、表彰台は慰めにはなったが、レッドブルが抱えるより深い問題を解決するものではなかった。
希望のレース、そしてペナルティ

フェルスタッペンが週末を救った一方で、角田のレースは痛々しく崩れ去った。
角田は17番手からスタートし、オープニングラップの混乱をうまく回避してクリーンに順位を上げた。さらに、完璧なタイミングでのセーフティカーにより、ハードタイヤを捨ててミディアムへ切り替えることに成功。これは、フェルスタッペンの強烈なペースを引き出したのと全く同じ戦略だった。
レッドブルのチーム代表であるローラン・メキース氏も、後にその走りを称賛した。
「クリーンエアでの最後のスティントは強かった」
実際のデータでも、クリーンエアでのラップタイムは前を走るメルセデス勢とほぼ同等であることを示していた。角田にもマシンにも十分なペースがあった。しかし、それは結果にはつながらなかった。
転機は6周目に訪れる。
ビコ・デ・パトに進入する際、フランコ・コラピントの後ろでブレーキングを誤り、ランス・ストロールと接触。アストンマーティンをスピンさせてしまった。スチュワードは角田に全責任があると判断し、10秒ペナルティと2ペナルティポイントを科した。
角田もメキース氏もそれについてコメントしなかったため、この沈黙を国際メディアは早速憶測で埋め尽くした。

しかし、ダメージはそれだけではなかった。ピットストップの手違いで、角田へのペナルティが正しく執行されなかったのだ。メカニックが規定より早いタイミングでマシンに触れてしまい、スチュワードはさらに10秒のペナルティを追加した。
その時点で、レースは完全に失われた。
しかし、より大きな文脈を見れば状況はずっと複雑だ。これはシルバーストーン以来、角田にとって回避可能な接触による初めてのペナルティであり、今シーズン彼が見せてきたクリーンで安定したレースクラフトを考えれば、珍しいミスと言える。同じように厳しい状況の中でほかのドライバーもミスを犯していたが、角田の場合、その背景にはチーム全体の不安定さ、実験的なセットアップ、そしてハイリスク戦略があった。
角田は、レッドブルが仕掛けたギャンブルの最前線で走っていたのだ。その役割は、成功よりも失敗のリスクの方がはるかに大きかった。
レッドブルのギャンブルとその代償

レッドブルは今年、開発面で攻めの姿勢を貫いてきた。その象徴が、サンパウロでフェルスタッペンに投入した新しいパワーユニットだ。費用は130万ドル以上に達するとされ、関係者によれば、チームはすでにコストキャップの上限に危険なほど近づいているという。
当然、その財政的負担には代償がある。
レッドブルがフェルスタッペン側のガレージにリソースを集中させられているのは、角田のプログラムを含むほかの領域で節約を進めてきたからでもある。角田には新しいコンポーネントも少なく、実験的パーツの投入も限られ、戦略的な余裕も小さい。
この週末の結果だけで角田を評価すること、あるいはどの週末でも、こうしたツールと優先順位の不均衡を認識せずに判断することは、チーム内部の力学を見誤ることになる。
ドライバーズチャンピオンシップが事実上決着した今、レッドブルの優先順位はついにシフトできるかもしれない。特にメキース氏のリーダーシップの下で、角田の技術的フィードバックや一貫性は消耗品ではなく、価値ある資産として再評価され始めている。
ある上級関係者はスプリントの最中、率直にこう語った。
「ユウキはマックスのための実験台だった」
これは角田への批判ではない。レッドブルがどのようにリスク配分しているかの現実を示している。
サンパウロは失敗ではなく“警告”だった

サンパウロの後、角田の解雇を求める国際的な評論家たちの声は大きくなった。多くの人が、この週末を「角田のレッドブルでの終わりの兆候」と位置づけた。
しかし、その分析は本質を捉えていない。
ブラジルGPは角田の崩壊ではなく、変化の渦中にあるチームの症状にすぎない。レッドブルは混乱し、パフォーマンスを求めて週末全体を賭けに出ていた。ドライバーにはリスクを受け入れることを求め、実験的なセットアップを押し進め、タイヤ戦略からピットストップに至るまで、すべてに不安定さが漂っていた。
そんな環境下で起きた角田のミスは、仮にそれがミスであったとしても、文脈の中でこそ理解されるべきだ。彼のペースは十分にあり、インシデントまでのレースクラフトは鋭く、最終スティントではメルセデスと渡り合えるほどの速さを示した。そして、コミットメントも決して揺らぐことはなかった。
レッドブルが2026年へ視線を向ける中、角田はその未来において貴重だが過小評価されがちなピースであり続けている。サンパウロでの週末は“終わり”ではなく、テストとして見られるべきだ。彼の弱さではなく、回復力を測るためのテストとして。
物語はまだ終わっていない。適切な安定環境さえ与えられれば、角田裕毅にはまだすべてを賭ける価値がある。
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