ホーム » F1 ニュース » F1ニュース » モノコック――F1ドライバーを守る「忘れられた鎧」

モノコック――F1ドライバーを守る「忘れられた鎧」

Fia car new generation 2019

F1マシンの安全性の中核を担っているのが、一般に「サバイバルセル」と呼ばれるモノコックだ。これはマシン中央部のシャシーであり、ドライバーを包み込む剛性の高い構造体として設計されている。

モノコックは主にカーボンファイバーとハニカム構造のアルミニウム複合材で作られており、驚くほど軽量でありながら、極めて高い強度を誇る。その設計思想の根底にあるのは「エネルギーを分散させる」という衝突工学の基本原理だ。クラッシュ時には、マシン前方のノーズや側面の衝撃吸収構造といった周辺部が段階的に潰れることで運動エネルギーを吸収し、ドライバーに伝わるGを可能な限り抑える仕組みになっている。

一方で、サバイバルセルそのものは変形や亀裂が生じてはならない。どれほど激しい衝撃を受けた場合でも、ドライバーの生存空間を守るため、完全な形を維持することが求められる。FIAが義務付けている衝突テストは極めて厳格で、高速での正面衝突試験や大きな荷重を伴う側面衝突試験、さらにはドライバー周辺の構造を物体が貫通しないことを確認する貫通テストまで含まれている。

この設計の有効性を世界に強く印象付けたのが、2020年のロマン・グロージャンの事故だった。時速221kmでの衝突によりマシンは文字通り二つに引き裂かれたが、サバイバルセルは無傷のまま残り、ドライバーを初期衝撃から守っただけでなく、炎の中から脱出するための貴重な時間を与えた。

モノコックは、F1ドライバーにとって究極の生命保険とも言える存在だ。この構造によって、ドライバーはカーボンファイバー製の“装甲車両”に守られた状態で、極限のスピードとリスクに挑み続けている。

[関連記事】

類似投稿