2023年 角田裕毅 vs ニック・デ・フリース

ガスリーのアルピーヌF1チーム移籍に伴い、2023年シーズンにおける角田裕毅のチームメイトがニック・デ・フリースとなることが発表された。自然な流れでは角田がチームリーダーとなるのだが、ニックの戦歴を鑑みると、移籍初年度からニックはそのポジションを狙っていると思われる。この記事では2人を比較し、誰が2023年のスクーデリア・アルファタウリF1チーム内での覇権争いを制し、レッドブルへの昇格を果たすことができるのか分析する。

ご存知の方が多いと思うが角田裕毅のキャリアや特徴は次の通り。2000年5月11日神奈川県生まれ、22歳。幼少期からカートに親しみ、2018年に18歳でFIA-F4選手権優勝。19年からレッドブル・ジュニアチームに加入するとともにヨーロッパに活躍の舞台を移す。2019年にFIA-F3ヨーロッパ選手権、2020年にFIA-F2に参戦。2020年F2では優勝3回・ポールポジション4回・表彰台4回を記録して総合3位となり、F2のドライバー・オブ・ザ・イヤーと最優秀ルーキーに贈られる「アントワン・ユベール賞」を受賞。スーパーライセンスの取得にも成功し、2021年からスクーデリア・アルファタウリからF1デビュー。

20歳でのF1デビューは日本人最年少記録。ドライバーの特徴としては、アグレッシブなブレーキングに特徴があり、それを活かしたオーバーテイクが強み。身長159cmと背が低いドライバーであるが、若さ溢れるアグレッシブさがドライビングでも性格面でも売り。

それが故にチーム内でのコミュニケーションに課題を抱え、特に無線での会話では感情的になりすぎる場面も。その一方「トラフィック・パラダイス」というF1業界内での新語を無線でのコミュニケーションから生み出すなど、自由奔放なスタイルがファンからの人気を集めている。

2022年シーズンではチームメイトのガスリーを予選・決勝ともに上回る成績を残すことも多く、アルピーヌへの移籍が決まったガスリーに代わって、2023年はチームリーダーとなるのかどうかが注目されている。

次はデ・フリースに注目してみよう。デ・フリースは来季、アルファタウリのプレシーズンテストに参加する頃には28歳となるドライバーであり、2019年に参戦3年目でF2のドライバーズ・チャンピオンシップを獲得してから初めてF1でのシート獲得となる。

他のフォーミュラカー以外でのレース経験も豊富であり、チーム自体を成長させることにおいては5歳年下の角田以上に成果を発揮するのではないかとレッドブルのモータースポーツアドバイザーであるヘルムート・マルコは語っている。

デ・フリースがチームリーダーとなりえる器なのかという質問に対しては「もちろんだ、角田はまだ若く、経験の面において足りていない。ニックがチームを引っ張ることも十分に起こり得る」と答えている。

「来年の練習セッションでどんなパフォーマンスを見せるのかを注視することになるが、これまでの経験と人間性を考えると、ニックがチームリーダーになるべきだと思う」

イタリアGPにてウィリアムズ アレックス・アルボンの代役を務めた時のパフォーマンスを基準としてみると、2023年のアルファタウリにおいてチームの主役となる、そして、ガスリーの正統なる後継者となる可能性もある。

9位フィニッシュとなったモンツァではDRSトレイン内でレースを通して走行するという厳しいコンディションだったにも関わらず、慌てることなく、デビューしたての新人というよりもベテランの風格を見せていた。

北オランダにある小さな村から生まれた背の低い27歳は、人間性の面において大人で落ち着いていて頭が良く、自信と謙虚さが非常に良いバランスで組み合わさったドライバーとなっている。

もしデ・フリースが頭一つ抜け出す存在となり、チーム内のナンバーワンドライバーとなったとすると、2024年以降の角田の将来は見通すことが難しくなる。

角田裕毅はハーシー・シガのインタビューでピエール・ガスリーが寂しくなるだろうと答えているが、ガスリーは角田にとって兄のような存在だった。特に初めてのF1でどのように車のセットアップを調整していくのかという面で良い先輩となっていた。

しかしながら2023年シーズンは状況が全く異なるものとなる。角田は27歳の北オランダ出身で成熟したドライバーであるニック・デ・フリースとチームメイトを組むことになる。ニックがガスリーのように角田の兄のような役割を果たすことは想像しがたく、むしろ彼自身の将来が角田のパフォーマンスと比較されることとなるだろう。ガスリーは角田に対して何かを証明する必要がなかった。これはチーム内での競争がより激しいものとなることを意味し、良い影響を与える可能性もある。ただしそれは同時に角田にとって2023年以降のF1キャリアへの脅威ともなりえる。

Media savvy and a good communicator

F1デビュー戦も含めて、ニックのレーシングキャリアは輝かしいものだった。しかし、絶えずそこには彼がF1のレベルで本当に通用するのかどうかという疑問符が残されていた。その疑問符はモンツァでのウィリアムズからのF1デビュー戦で見せた印象的なパフォーマンスにより払拭された。F1のシートに値するドライバーだと証明したのだ。

167cmの角田とほぼ同じ身長を持つニック・デ・フリースだが、ここまでのキャリアにおいて2020-21シーズンのフォーミュラE世界チャンピオン、2019年FIAフォーミュラ2チャンピオンシップ、2010年・2011年のカート世界選手権2年連続優勝という輝かしい成績を残している。また、フォーミュラE自身初挑戦のシーズンにおいてメルセデスから優勝を飾っていることは予測不能なレースにおいても力を発揮するという特に印象的な実績となっている。

このような豊富な経験をもとに、ニックは角田に対して明確なアドバンテージを持っている。彼はヨーロッパのサーキットやレース文化を熟知しており、や現代のF1において非常に重要な要素となっているコミュニケーションの面においても非常に優秀である。逆に、角田はF1に上がる前の2年のみをヨーロッパでレースしたのみであり、そのうち1年はF2でのシーズンだった。ウィリアムズF1チームからデビューしたイタリアGPでのニックの無線での会話を聞いてみてほしい。無線でのニックは何年もF1を戦ってきたドライバーかのような振る舞いだった。残念ながら角田の無線からはそういったものがここまで聞こえてきたことはない。

ニックはメディアからの評判も良い。インタビュー対応がうまく、しっかりと自分の言葉で発言できる。カメラ映りも良く、メディアからよく好かれている。角田の場合はカメラの前で好ましくない態度を取ることが時たまあり、長年メディア対応をこなしてきているニックとの差は歴然である。

これまで角田にとって経験したことのないものがニック・デ・フリースの政治的影響力である。ピエール・ガスリーとの戦いにおいては角田は経験したことがなかった。ニックはメルセデス、特にトト・ウルフとその仲間からのサポートを受けており、それがメルセデスのリザーブドライバーを務める大きな理由となっていた。しかし、彼にはもう1つの大きな後ろ盾がある、チームフェルスタッペンだ。

オランダ人ということもあり、ニックはチームフェルスタッペンのお気に入りドライバーであり、つまりそれはレッドブル本体に対しても大きなサポートとなる。実際にマックスがニックをヘルムート・マルコに推薦し、アルファタウリと契約に至っている。それはレッドブル・レーシングへの昇格候補としても政治的基盤として大きな意味を持つ。角田はホンダからの全面的なサポートを受けているものの政治的影響力と呼べるものまでは持っていない。

ニックはフェルス
Team Verstappen support

ニックはフェルスタッペンのマネージャーであるレイモンド・フェルミューレンとよく話している。角田はマネージャーと契約していない。ニックはオランダ人として、フェルスタッペンの友人であると同時に、F1に熱狂的なオランダ人ファンを抱えていることとなる。角田にはホンダのサポートはあっても、国をあげての応援というところまでは至っていない。日本国内においてモータースポーツファン以外からの知名度を獲得しているとは言い難く、大谷翔平や松山英樹、錦織圭といったアスリートと人気面で比較することはできない。

Honda Support

総括

2023年シーズンにおけるアルファタウリのチームリーダーが誰になるのか、そしてセルジオ・ペレスの後釜としてレッドブルに昇格するのが誰になるのかを結論づけるのはまだ時期尚早である。

現時点での印象ではニックがデビュー戦となったモンツァでのイタリアGPから非常に良い流れを継続しているように思える。ニックはレースの勝ち方やシーズン通しての戦い方を熟知している。さらに、チームフェルスタッペンとしてレッドブルへの昇格がサポートされる強力な後ろ盾も得ている。結論として、ニック・デ・フリースは角田裕毅と比較しても、よりコミュニケーション能力に長け、周囲からのサポートを得ている成熟したドライバーだと言えるだろう。ニックは一年目からアルファタウリのチームリーダーとなり、開発面においてもチームに貢献できると考える。

なぜ角田裕毅がF1のシートに座っているのか、そして、育成プログラム出身としてレッドブルトップチームへの昇格には自分こそが相応しいと証明するチャンスは角田にまだ残されている。角田はフランツ・トストやPUサプライヤーであるホンダからも最大限のサポートを受けていると言えるだろう。だが、一人前のF1ドライバーとしてまだまだ多くの面で成長を見せなくてはならない。そのためには角田自身が居心地の良い場所から一歩抜け出して貪欲にチャレンジしていくことが求められる。予選での継続性やチームとのコミュニケーション、彼自身がイニシアティブを取ってチームの活動をリードしていくことなど、成長の余地が角田には大きく残されている。

2023年、アルピーヌのオコンとガスリー、マクラーレンのノリスとピアストリなどと並び、アルファタウリの2名のドライバーも大きな注目を集めるはずだ。

Similar Posts