アウディ、ザウバーF1との提携で成功を掴めるか?

Audi F1 Launch

8月26日、アウディは、2026年までにエンジン(パワーユニット)サプライアーとしてF1に参入すると発表した。どのチームと提携するか、明言こそしていないが、業界関係者の中ではザウバー(アルファロメオF1)になると予想されている。この記事では、ザウバーとの提携がアウディにとって正しい決断なのかどうか。ザウバーはアウディの高い期待に応えられるのかどうか。成功へと導くためにアウディに必要なものは何かを解説する。

ベルギーGP開催中、FIAより「次世代エンジンレギュレーション」が発表されたのと同じ頃、アウディのF1参入が発表された。

ベルギーGPの舞台、スパ・フランコルシャンにて開催された公式記者会見にて、アウディの取締役会会長であるマルクス・デュスマンは、F1計画について次のように説明した。

「アウディF1パワーユニット・プログラムのために、別会社を設立しました。”Audi Sport” の完全子会社であり、エンジンの製造拠点はドイツ・バイエルン州のノイブルク・アン・デア・ドナウにあります。”Audi Sport” の新しい本拠地として2014 年にオープンし、47ヘクタールの敷地を有します。インゴルシュタットのアウディ本社から車で30分の距離です。」

「ノイブルクの施設には、V6内燃エンジン、電気モーター・バッテリーの両方に対応したテストベンチが備わっており、今年3月より開始している本プロジェクトには既に100人の従業員が働いており、今後は300人の雇用を目指しています。2022年末にはフル稼働をする予定で、そのタイミングでF1パートナーチームを発表したいと考えています。」

当たり前ではあるが、アウディのF1計画には膨大な資金がかかる。新たに導入された予算制限を考慮しても。毎年約1億米ドルの出費となるのではと予想する。これにインフラ整備投資や人件費を加えると、2026年のシーズン開始までに、およそ5億米ドルの出費が必要になると予想される。なお、この金額には、F1チームの過半数株購入費用は含まれていない。世界中でのF1人気の上昇とパートナーシップ契約などで、F1チームの価値は年々高まっている。莫大な資金を投入するアウディは、それに値する成功をF1に求める。デュスマンは、「理想としては、3年以内に勝てるチームを作り上げる。」と語った。つまり、2年目にグランプリを獲得し、3年目にコンストラクターズチャンピオンシップを獲得できれば、ということだ。

ザウバー・モータースポーツ・AG (アルファロメオF1チーム・オーレン)がアウディのF1パートナーになることが広く期待されている。ザウバーの拠点は、スイス・ヒンウィルにあり、ノイブルク(アウディのF1拠点)から車で僅か 4 時間の場所にある。

アルファロメオは、2023年シーズン終了までのF1撤退を既に発表しており、アウディがザウバーを引き継ぐ余地を残している。さらに、現在のザウバーの所有者であるロングボウ・ファイナンスS.A. が、ザウバーの過半数株をアウディに売却する気になっていることだ。

ザウバーは、 F1チームのライセンスに加えて、1993年以来培ってきた、F1カーの設計・製造の優れたインフラと、労働者を擁し、更にはF1での長い実績がある。

 Audi F1 CEO Adam Baker knows Sauber from his BMW days.

興味深いことに、アウディの新CEOアダム・ベイカーは、2006年から2009年にかけて行われた”BMWザウバー F1 プロジェクト”にも関与していた。最初はエンジンエンジニアとして、そしてレース責任者としてF1パワートレインのテストを担当してきた経歴を持つ彼は、ザウバーを知り尽くしている。

まず、ザウバーのロケーションだ。スイスのヒンウィルに位置するが、これはアウディのドイツにあるエンジンファクトリーから、車でたった4時間の場所である。更に、どちらもドイツ語を話し、環境的にもアウディのスタッフに馴染みが深い。とはいえ、これは本当に有利と言えるのだろうか。

殆どのF1チームが、北イタリアや、イギリス・ロンドン近郊に拠点を置いているのにはそれなりの理由がある。ハース、アルファタウリ、そしてもちろんフェラーリはイタリアに拠点を持ち、それ以外のF1チームはイギリスに拠点を置く。レッドブル、メルセデス、更にはフランスのチームであるアルパインF1までもだ。

イギリスとイタリアの生活費が安いことに加えて、両国に共通するのは、熟練したF1スタッフの供給だ。レースエンジニア、メカニックからサービス担当者まで、すべてが両国に集中している。

ザウバーは常にF1チームの中では遠く離れた存在であり、業界関係者によると、多くの場合不利な点が多いという。ザウバーにとって、優れた人材をヒンウィルに集めることが最大の課題となる。

ザウバーにとって最高だった時期は、2006年から2009年までのBMW時代だろう。2008年のカナダGPで、ロバート・クビツァが優勝、10億米ドル以上を費やして得た僅かな栄光だ。

2009年末にBMWがザウバーから撤退、残されたザウバーチームは、大きな失望と財政難に苦しんだ。2016 年にロングボウ・ファイナンス S.A.が買収し、チームを救ったが、その後新たな成功は掴めていないままだ。

2019年にF1レジェンドのキミ・ライコネンと契約し、戦略的なエンジンパートナーとしてフェラーリを迎えたとしても、ザウバーには、筆者が「フェラーリ・フォーミュラ」と呼んでいるものには今ひとつ何かが不足していた。

アウディの成功に必要なこと

残念ながら、今後10年間でアウディがコンストラクターズチャンピオンシップで優勝できない確率は80%程度だ。これまでに他のメーカーが失敗してきた過去を見るとアウディの挑戦が容易ではないことがわかる。

アルピーヌF1 (ルノー)、 トヨタ、BMW、そしてもちろんホンダも、F1で成功することがいかに難しいかを証明している。

アウディが設定する「3年以内の成功」の為には、「フェラーリ・フォーミュラ」に倣う必要がある。2000 年代初頭のシューマッハの全盛期ににフェラーリが定めた、現代のF1の勝利のフォーミュラ(公式)、「フェラーリ・フォーミュラ」だ。

勝利の公式: お金にモノを言わせ、最高の経営陣・最高のドライバーを揃えること。

今回のチャンピオンシップで優勝を果たした要因を詳しく見てみよう。

「フェラーリ・フォーミュラ」

Michael Schumacher – the Ferrari legend!

「フェラーリ・フォーミュラ」の核心は、個々の重要性だ。当時の偉人達は、フォーミュラ 1だけに生き、他の偉人ともコラボレート出来るような人材であった。

シューマッハのフェラーリ時代、これほどの優れた個性を組み合わせて勝利を収めたチームは他になかった。当時のフェラーリ社長のモンテゼモーロを筆頭に、ジャン・トッド、ロス・ブラウン、ロリー・バーン、ミハエル・シューマッハという最高のメンバーが揃っていた。

「フェラーリ・フォーミュラ」のもう 1 つの重要な要素は、「勝利の遺伝子」を獲得すること、つまり勝ち方を知ることだ。「勝利の遺伝子」は、全てのチームメンバーに浸透し、ここぞという瞬間に幸運を生み出す、目に見えない力である。これは、ベテランと若い才能をパーフェクトに組み合わせた完璧なチームだからこそ生まれる力だ。

シューマッハがいたフェラーリでは明らかに感じられたその力だが、2022年のフェラーリからはまだ感じられない。

とはいえ、これは資金投入などですぐに手に入るものではなく、苦労と失敗を何度も繰り返すことで得られるものである。

総論

2000年代のフェラーリは、現代のF1で成功を収めるための勝利の方程式を打ち立てた。 フェラーリの事例は、時間と財源の重要性を強調している。このチームには莫大な資金がかかっており、フェラーリがコンストラクターズ・チャンピオンシップを6連覇する「勝てる力」をつけるのにも長い時間が必要とされた。こんなドリームチームでさえ、3年以上苦戦してきた。

簡単に言っているようだが、この「フェラーリ・フォーミュラ」を再現し得たチームは数少ない。メルセデスとレッドブルはその数少ないチームだ。 ルイス・ハミルトン、ニキ・ラウダ、トト・ヴォルフを中心とするメルセデス。 レッドブルは、ディートリッヒ・マテシッツ、ヘルムート・マルコ、クリスチャン・ホーナー、エイドリアン・ニューウェイ、セバスチャン・ベッテル、そしてマックス・フェルスタッペンが所属している。また、F1の巨人であるフェルナンド・アロンソとフラビオ・ブリアトーレを擁するルノーも忘れてはならない。

アウディには、「フェラーリ・フォーミュラ」を再現し、F1コンストラクターズチャンピオンシップで勝利するためだけの資金、資源、および決意があり、そこに疑いの余地はない。アウディにとっての真の課題は、ザウバーを「勝利の力」に変えるために時間をさくことだ。

ザウバーを再構築しボトムアップを図り、中心的管理職を何としてでも優れた人材に置き換えることを意味する。次に、この新しいチームに、最初に酷い失敗を経験させ、「勝利の遺伝子」を構築する時間を与える。酷い失敗、それもプロセスの一部なのである。

したがって、アウディに問うべきなのは、すべての可能性を克服し、失敗を受け入れて最終的に栄光を手にし、F1のトップに立つための忍耐力と持久力があるのか、である。答えは時のみぞ知るであろう。

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