アロンソの”ベテラン力”とアストンマーティン×ホンダへの布石

フェルナンド・アロンソ
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フェルナンド・アロンソは、なぜ今もF1屈指のタフな戦士であり続けるのか。その理由を再び証明してみせた。シンガポールGPでは、レース後にルイス・ハミルトンのペナルティが科されたことで7位へと繰り上がったアロンソ。だが、その結果以上に印象的だったのは、燃えるような闘志、時折見せる苛立ち、そしてベテランらしい鋭い判断力が光る走りだった。

しかし、アストンマーティンにとってこのレース結果は、安心材料であると同時に、いくつもの疑問を投げかけるものでもあった。

未来への焦点

Andy Cowell Canada
アンディー・コーウェル

金曜日に行われたFIAチーム代表者会見で、アストンマーティンのマネージングディレクター、アンディ・コーウェルは「今シーズンの結果だけにとらわれない、先を見据えたチームの方針」を語った。コーウェルはシンガポールGP後にはすぐにホンダの桜工場を訪れる予定であることを明かし、すでにホンダが2026年に向けたプロジェクトの中核的存在になっていることを強調した。

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コーウェルはホンダとの協業について「自由で創造的」と表現し、シミュレーション開発の共同作業や、エンジニアリング哲学の一致を評価した。しかし、その率直な発言はチームの本当の焦点をも示している。
「我々は”意図的に”今季マシンの開発を抑えている。焦点は2026年、ホンダとアラムコとともに挑む“真のワークスカー”なんだ」とコーウェルは語った。

アストンマーティンは、2026年から導入される新レギュレーションへの完全移行を優先しており、現在のマシンAMR25は“妥協の産物”とも言える状態だ。
「低いダウンフォースで走る時は速いが、効率が求められる場面では苦戦する。これが現状の正直な評価だ」と彼は説明する。

それでもコーウェルは、未来への基盤づくりが着実に進んでいると強調する。シルバーストーンではエイドリアン・ニューウェイが設計部門の指揮を執り、エンリコとジャコモ・ヴィーノら新たな技術陣が加わることで、ホンダエンジン時代への布石が整いつつある。
「もし今シーズンに全開の開発リソースを注いでいたら、今ごろ全く違う環境で戦っていたかもしれない。しかし、我々が見据えているのはそこではない。目指すのは2026年なんだ」

土曜日:チャンピオンの底力

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fernando alonso sing

そのような(マシン)状況の中で、アロンソの予選の走りは驚くべきものだった。タイトなコーナーと高温多湿の中で難しいマシンと格闘しながら、彼はQ3に滑り込み、グリッド10番手を確保した。

「Q3でのラップには満足しているよ」とアロンソは振り返る。「でも、これ以上のパフォーマンスを発揮するのは難しかった。マシンはかなり扱いにくかったからね。明日どうなるか見てみよう。」

自らのマシンの限界を熟知するベテランらしい、現実的なコメントだった。アストンマーティンは全体的にバランスを欠き、その中でアロンソの適応力がチームの抱える深刻な性能不足を覆い隠していた。一方でチームメイトのランス・ストロールはQ1敗退に終わり、17番手。今シーズンを通して続く予選での不振が、チームが2台でポイントを狙えない要因となっている。

日曜日:激しいレースと馴染みのある声

シンガポールのナイトレースは、忍耐と精密さが試される舞台――その両方を極めてきたのがフェルナンド・アロンソだ。
半濡れの難しい路面でソフトタイヤを選んだアストンマーティンの賭けは序盤こそ成功したが、ピットストップの遅れが響き、アロンソはハースの新人オリバー・ベアマンとRBのアイザック・ハジャーの後方に沈んだ。そこから始まったのは、彼らしい執念と皮肉が入り混じるリカバリードライブだった。

エンジニアが無線で過剰(毎週ごと)に状況を伝えると、アロンソは即座に切り返した。
「毎周しゃべるなら、無線を切るぞ!」

アロンソ シンガポールGP

この一言にファンは笑い、かつてのライコネンの名言「Leave me alone!」を思い出した。
さらにエンジントラブルを抱えながらも強気に防戦するハジャーとのバトルでは、アロンソは皮肉を込めてこう呼んだ。
「今日のヒーローは彼だね」

レース後、彼はいつもの率直さで振り返った。
「戦うべき時と、引くべき時がある。今日は時間を失ったけど、ここはシンガポールだからね」

そして、最も印象的だったのは終盤の攻防だった。ブレーキに問題を抱え、たびたびコーナーをショートカットしていたルイス・ハミルトンを追う中、アロンソの無線が再び火を吹いた。

「おい、ふざけるなよ。ブレーキなしで走って大丈夫なのか?」

この一言は瞬く間に話題となり、スチュワードも同意。トラックリミット超過でハミルトンに5秒ペナルティが科され、最終結果でアロンソが前に出た。

――42歳の老雄は、静かに、しかし確実にその存在を示した。

より広い視点で見れば

今回の7位という結果は、近戦でのベストフィニッシュであり、アロンソが限界のマシンで粘り強く戦い続けた証でもあった。
レース後、アストンマーティンのマネージングディレクター、アンディ・コーウェルは「2台とも多くのオーバーテイクを見せた。中でもアロンソのレースマネジメントが勝敗を分けた」と語っている。
タイムロスとなったピットミスを経ても、終盤にミディアムタイヤへ切り替えた判断が功を奏した。

一方で、ランス・ストロールは13位フィニッシュ。ペースの改善は見せたものの、ポイント圏には届かなかった。

しかしチーム内には、“シンガポールで流れが変わった”という幻想はなかった。
AMR25はあくまで“つなぎ”のマシン――耐えるためのマシンであり、未来を築くためのものではない。
今回のレースで本当に浮かび上がったのは、マシンではなくフェルナンド・アロンソというドライバーの揺るがぬ情熱だった。

ベテランが抱くプロジェクトへの信念

Fernando Alonso hun
フェルナンド・アロンソが

アロンソはしばしば、自身のアストンマーティンへのコミットメントが2025年にとどまらないことをほのめかしてきた。今週末を前に、「もしチームのブレークスルーが2026年までに来なければ、もっと長く残るかもしれない。キャリアを最高の形で締めくくりたいからね」と冗談交じりに語った。

その言葉の背後には確固たる信念がある。「このプロジェクトの成功を体験したいんだ。アストンマーティンが将来タイトル争いに加わることは、ほぼ間違いない — 必要なものはすべて揃っている。ただ、それを実現するには実行力、タイミング、そして時には運も必要だ」とアロンソは続けた。

現時点でチームの希望は、来季デビュー予定のエイドリアン・ニューウェイによる技術的天才とホンダのワークスパートナーシップに託されている。それまでは、アロンソ自身の不屈のレース運びと、誰もが認める反骨の閃きこそが、アストンマーティンにとって最大の武器であり続ける。

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