フェルスタッペンの将来に暗雲―レッドブルの戦略ミスと内部対立

レッドブル・レーシングにとってシルバーストンは、ただの苦い敗北ではなかった。チャンピオンシップへの野望が完全に崩れ去った場所となったのだ。破滅的なイギリスGPの後、パドックで最も楽観的な声ですら、両タイトルがもはや届かない位置にあると認めざるを得なかった。残されたのは、混乱に包まれたチーム、進まない開発、社内の緊張感、そして「フェルスタッペンはいつまで残るのか?」という疑問だった。
フェルスタッペンと角田、雨中の格闘
そのフェルスタッペンは今もなお、チームの中核を担っている。2004年に撤退したジャガーF1チームの体制を引き継いで誕生したレッドブルは、今まさに、かつてない不安定な時期に突入している。その中でも、フェルスタッペンはチームの中心を支える唯一の存在であり続けている。
チームメイトの角田裕毅は、RB21で初めて本格的なウェットコンディションのレースに挑んだ。しかし、その結果は厳しいものだった。フェルスタッペンがグリップに苦しみ、何度もドライバビリティに懸念があると訴える中、角田も極端にアンバランスなマシンと格闘することになった。

9周目、オスカー・ピアストリがフェルスタッペンを鮮やかに追い抜き、その差が一層際立った。現地では「まるでマックスがマシンと格闘しているラリードライバーのようだった」とささやかれていた。その直後、ランド・ノリスにもあっさりと抜かれてしまう。さらに、バーチャルセーフティカー再開後のスピンで、フェルスペッタンは順位は10位に転落した。戦略ミスが重なり、散々な週末となった。
裏目に出た判断、深まる内部のひずみ
レッドブルが選択した小さなリアウィングは、フェルスタッペン側の意向に沿い、予選での速さを狙った判断だった。確かに土曜日はうまくいったが、レースコンディションでは裏目に出てしまった。
このローダウンフォース仕様には、技術的な狙いだけでなく、政治的な思惑もあったとみられる。「これはマックスへのメッセージだ」と内部関係者は明かしている。
雨が降ると、マシンの空力バランスの欠陥が露骨に現れた。RB21は、金曜から見えていたタイヤの摩耗の早さ、アンダーステア、そして慢性的なオーバーステアといった弱点を再びさらけ出した。
ところどころに速さはあったものの、RB21は根本的に問題を抱えている。フェルスタッペンでも限界があることは、角田の苦戦ぶりを見れば明らかだ。このマシンは、マックス以外のドライバーには手に負えない。予算的制約と、2023年後半から続くフェルスタッペン中心の開発方針により、レッドブルは軌道修正したくてもできない状況にある。
現在、レッドブルは開発の軸をすでに2026年の新レギュレーションにシフトさせている。チーム代表のクリスチャン・ホーナーも「今季のアップデートは小規模になる」と認めている。しかし、長期的な視点でも不安は拭えない。フォードと共同で進めている2026年のパワーユニット開発は、予定より遅れていると報じられている。フォードにもレッドブル・パワートレインズにも、最新のハイブリッド時代に通用するエンジン開発の実績はない。そのためパドックでは懸念が高まり、関係者の間では水面下でさらに深刻な見方も出ている。
条項が呼ぶ嵐、崩れるレッドブルの均衡
しかし、トラック外ではより大きな嵐が着実に近づいている。フェルスタッペンの契約は2028年まで続くが、ある重要な「パフォーマンス条項」が含まれているという。その条項によれば、夏休み前にドライバーズチャンピオンシップで3位圏外にいた場合、違約金なしで契約を解除できるそうだ。
仮に、この条項が発動されなければ、フェルスタッペンの早期離脱には巨額の買い取りが必要になる。それは、今のメルセデスでさえ簡単には動けない金額だという。とはいえ、この条項があるというだけで、状況は大きく動き始めている。
イタリアの一部メディアが報じた「メルセデスと契約間近」という話は、時期尚早だろう。しかし、関係者によれば、フェルスペッタンの父ヨスとマネージャーのレイモンド・フェルメーレンが、水面下で強い圧力をかけているという。彼らが要求しているのは、ホーナー代表の影響力の大幅な縮小、あるいは完全な更迭だ。
フェルスタッペン陣営は、技術スタッフの大量離脱とホーナー氏の対応を非難している。また、2024年から続くホーナー氏の不正疑惑も未解決のままだ。さらに問題を複雑にしているのが、2026年1月にイギリスで予定されている民事裁判だ。新エンジン体制が始まるタイミングで、古い火種が再燃する可能性がある。
エナジーステーションに漂う不穏な空気
シルバーストーンでは、レッドブルのエナジーステーション内で緊張感が張りつめていた。数か月ぶりに姿を見せたヨス・フェルスタッペンのパドック復帰は、状況をさらに緊迫させた。オランダのメディアが密着する中、ヨスの存在は「今でも影響力を持ち、時に個人的な思惑やチーム内の力関係に影響を与える目的のために、プレスを利用することもある」ことを印象づけた。
一方、クリスチャン・ホーナー氏は、直近の成績不振を受けて、またもや緊急の内部協議に臨んでいた。情報によると、イギリスGPまでに導入予定の新しいアップグレードでチームの不振を立て直すと約束していた。だが、その約束は今や完全に崩れ去っている
対照的に、マクラーレンは順調にステップアップしている。ノリスとピアストリは、ウェット、ドライどちらのコンディションでも安定した速さを見せていた。
決断、期限、そして連鎖反応
フェルスタッペンの将来は依然として未定だが、プレッシャーは高まっている。夏休みが近づく中で、動きがある可能性は高まっている。2026年にメルセデスに残るかどうかまだ確定していないジョージ・ラッセルの動向も、グリッド全体に波紋を広げる可能性がある。
ラッセルは木曜のFIA会見で冷静さを保ち、「絶好調なので、他チームとは交渉していない」と語った。
しかし、F1での「安定」は幻のようなものだ。舞台裏では、すでに多くの交渉が進んでいる。フェルスタッペンの契約、ラッセルの将来、レッドブル内部の権力争い──。これらが複雑に絡み合い、グリッド全体を再構築する引き金になるかもしれない。
角田自身の今後も、そのパズルの解き方次第で大きく左右される可能性がある。現在のところは、彼は明らかに不利な立場にあるセカンドドライバーとして残留し、彼のため設計されていないマシンに苦戦すると見られている。
そしてフェルスタッペンは? その忠誠心が本物だったとしても、今の環境で彼が長く留まると信じている者は、ほとんどいな。
この話は、もはや仮定ではない。答えは間もなく明らかになる。
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