黄金帝国の終焉か、それとも復活か―相次ぐ離脱が示すレッドブル2026年の真実
2021年からマックス・フェルスタッペンが4年連続でドライバーズチャンピオンを獲得し、2022・2023年にはコンストラクターズタイトルも制したレッドブル。かつての圧倒的な強さは、今のチームにまだ息づいているのだろうか。
近年、チーム内部で大きな変化が続いていることは、成績にも明確に表れている。2026年シーズン序盤、フェルスタッペンは予選Q2敗退を喫するなど、かつての支配的なパフォーマンスからは程遠い状況だ。しかし数字以上に気になるのは、チームを支えてきた主要メンバーが相次いで離脱している点である。

F1において、チームの内部体制はマシンの性能と同じくらい重要な要素だ。組織が安定していなければ、開発の方向性もドライバーのパフォーマンスも定まらない。レッドブルは現在、ドライバーラインナップだけでなく、技術・運営面の主要人物にも大きな入れ替えが生じている。マシンの再構築と組織の立て直しを同時に進める中で、チームがかつての強さを取り戻すことはできるのかーー今シーズンはその試金石となるだろう。
ドライバー
まず、最も目に見えやすい部分であるドライバー体制から見ていこう。レッドブルはF1において珍しい存在だ。傘下にレーシングブルズというジュニアチームを持ち、独自のドライバー育成システムを構築している。有望な若手をレーシングブルズで経験を積ませ、実力が認められればレッドブル本体へ昇格させるーーそういった明確なキャリアパスが用意されている。
その一方で、この仕組みはシビアな競争原理とも表裏一体だ。成績が振るわないドライバーは、シーズン途中であっても容赦なく交代させられてきた。育成と淘汰を同時に機能させるこのシステムこそが、レッドブルのドライバー戦略の根幹をなしている。
セルジオ・ペレス

2021年にレッドブルに加入し、チームの2022・2023年コンストラクターズ制覇に貢献。5勝を挙げたが、2024年シーズン後半は深刻なスランプに陥り、最終8戦でわずか9ポイントしか獲得できなかった。2024年12月、2026年までの契約を残しながらも合意の上でシーズン終了と同時に離脱。
リアム・ローソン
レーシングブルズでの活躍を経て、ペレスの後任として2025年に昇格。しかし、初戦オーストラリアGPでクラッシュ、第2戦中国GPでは予選最後尾という最悪の結果に終わり、わずか2レースで降格という決断を下された。 昇格から降格までの期間はわずか99日。
角田裕毅

4シーズンにわたってレーシングブルズで経験を積みながら、ローソンに先を越される形でレッドブル昇格を見送られた。 しかしローソン降格を受け、日本GPから満を持してレッドブルデビュー。ただ、レッドブルのマシンはフェルスタッペンの特異な走りに特化した設計と広く言われており、歴代のチームメートのほとんどがその適応に苦しんできた。角田もまた、その洗礼を受けることになる。2025年シーズン終了後はレギュラーシートを失い、2026年はレッドブルとレーシングブルズ両チームのリザーブドライバーとしてチームに残留。
チーム上層部
続いて、チームの方向性を決定づける上層部に目を向けてみよう。F1においてチームが一丸となって1台のマシンを作り上げるためには、組織をまとめるリーダーの存在が不可欠だ。チーム代表はひとりの人間に過ぎないが、その判断と姿勢はチーム全体のカルチャーに直結する。
その好例が、近年のハースだ。小松礼雄氏がチーム代表に就任して以降、チームは一貫した方向性のもとで着実に基盤を固めてきた。その成果は数字にも表れており、2024年のコンストラクターズ選手権では58ポイントを獲得し、7位でシーズンを終えている。決して派手な結果ではないが、チームが同じ目標に向かって動いている時に何が生まれるかを示す、象徴的な事例といえる。
しかし、レッドブルが歩んできた道はハースとは対照的だ。
ジョナサン・ウィートリー
レッドブルのスポーティングディレクターを18年間務め、DHL最速ピットストップ賞を7年連続で受賞(2018〜2024年)するなど、ピットレーン運営を統括した実務のプロフェッショナル。2024年8月に離脱が発表され、2025年4月よりザウバー(現アウディ)のチーム代表に就任。しかし2026年3月、「個人的な理由」により突如離脱し、チームを去った。
クリスチャン・ホーナー

2005年のチーム創設当初から20年間チームを率いた。セバスチャン・ベッテル4連覇とフェルスタッペン4連覇を含む計8度のドライバーズタイトル、6度のコンストラクターズタイトルを達成。しかし、2024年初頭に女性スタッフへのハラスメント疑惑が浮上して以降、内紛・チーム成績の低下・相次ぐ離脱が続いた。2025年7月、理由を明示されないまま即時解雇。後任にはレーシングブルズのチーム代表を務めていたローラン・メキース氏が就いている。
ヘルムート・マルコ

レッドブルのレーシングアドバイザーとして若手ドライバーの発掘・育成を長年主導してきた“育成の神様”。フェルスタッペンをレッドブルに引き込んだ立役者でもあり、2人の間には強固な信頼関係があった。 そのマルコも、2025年シーズン終了とともにチームを去った。
エンジニア
表舞台に立つことはないが、F1というスポーツを根底から支えているのは、そんな影の存在だ。レースエンジニアとして現場の指揮を執る者、マシンの設計と開発を担う者ーーその役割は多岐にわたるが、チームの競争力を左右するという点では、ドライバーに勝るとも劣らない。エイドリアン・ニューウェイ氏のように、その名が伝説として語り継がれるエンジニアも存在する。一見地味に映るかもしれないが、エンジニアがひとり抜けるだけで、同じマシンを再現することすら困難になる。それほどまでに、彼らの存在はチームの核心に根ざしているのだ。そんな影の立役者の中でも特に経験豊富な人物たちが、近年レッドブルを相次いで去っている。
エイドリアン・ニューウェイ
F1史上最も偉大なデザイナーのひとりと称される“デザインの天才”。ウィリアムズ、マクラーレンでの活躍を経て2006年にレッドブルに加入し、ベッテル4連覇・フェルスタッペン4連覇を含む計8度のタイトルマシン設計に関わった。特に2023年の「RB19」は22戦中21勝を挙げ、F1史上最も成功したマシンと言われる。2024年5月、「新しい挑戦を求めた」として離脱を発表。2025年3月よりアストンマーティンに合流し、2026年からは同チームのチーム代表に就任している。
ロブ・マーシャル
チーフデザイナー(後にチーフエンジニアリングオフィサー)として17年間在籍し、ニューウェイ氏とともにレッドブルの黄金時代を支えた設計の実力者。2023年5月にマクラーレン移籍が発表され、2024年1月より新天地での活動を開始。マクラーレンでは2024・2025年のコンストラクターズ2連覇に貢献。「今動かなければ、おそらくレッドブルに永遠にいることになると思っていた」と自らの決断を振り返っている。
ウィル・コートニー
レッドブル(ジャガー時代を含む)に22年在籍し、うち15年間はヘッドオブストラテジーとして決勝レースの戦略を担い続けた。2024年9月にマクラーレンのスポーティングディレクター就任が発表されたが、契約上2025年シーズンはレッドブルに残留し、実際の移籍は両チームの合意のもと2026年初頭となった。
ジャンピエロ・ランビアーゼ
2016年のスペインGP以来フェルスタッペンの専任レースエンジニアを務め、4度のタイトル制覇を並走してきた不動の右腕。2025年にはウィートリー氏離脱に伴いレッドブルのヘッドオブレーシングに昇格し、チーム内で3番目の実力者となっていた。しかし2026年4月9日、2027年末の契約満了をもってマクラーレンに移籍することが電撃発表された。マクラーレンでは既にマーシャル氏、コートニー氏という元レッドブル勢が活躍しており、“黄金トリオ”が一堂に会することになる。

レッドブルはこの困難な時期を乗り越え、再び上位争いに加わることができるのだろうか。かつて他チームを圧倒し、F1の頂点に君臨したチームが、今や組織の根幹から揺らいでいる。チームが一丸となって再出発できるのか、それとも内部の混乱を止められないまま沈んでいくのかーーその答えは、まだ誰にも見えていない。
そこへさらに追い打ちをかけるように、チームの象徴であるフェルスタッペンの離脱を示唆する噂がパドックに静かに広がっている。4度の世界チャンピオンであり、レッドブルの黄金時代を体現してきた男が、チームを去るかもしれない。そんな話が現実味を帯びて語られるようになったこと自体、このチームがいかに異常な状況に置かれているかを物語っている。
日本GPで我々が目にしたフェルスタッペンは、かつての彼ではなかった。これまでの彼を象徴していたのは、感情の激しさだった。マシンへの不満があれば無線で怒鳴り、レース中に理不尽な接触を受ければ声を荒げ、勝利の瞬間には子供のような喜びを爆発させた。その感情の振れ幅こそが、フェルスタッペンというドライバーの本質だった。しかし今の彼は、マシンに満足していなくても、礼儀正しく、穏やかで、時に冗談さえ口にする。表面上は落ち着いているように見えるが、かつてのF1への熱狂は、そこにはない。情熱の代わりに漂うのは、どこか冷めた距離感だ。レースへのこだわり、勝利への渇望、そういったものが、少しずつ薄れているように見える。

その噂をさらに現実味のあるものにしているのが、長年フェルスタッペンを支えてきたレースエンジニア、ジャンピエロ・ランビアーゼ氏の離脱だ。2016年からフェルスタッペンとコンビを組み、数々のタイトル獲得をともに歩んだ右腕。かつてフェルスタッペンは「彼以上に優れたエンジニアはいない」と言い切ったほど、その存在を信頼していた。そのランビアーゼ氏がチームを離れるという事実は、単なる人事の変動ではない。フェルスタッペン自身がレッドブルに残る理由を、ひとつ失ったことを意味するのかもしれない。
そして、問題はドライバーだけにとどまらない。今のレッドブルには、純粋に優勝を争えるマシンがないのだ。日本GPの予選では、フェルスタッペンがQ2で敗退するという屈辱的な結果に終わった。かつて予選でポールポジションを当然のように奪っていたドライバーが、ミッドフィールドの争いに埋もれている。無線では「マシンが全く運転できない」という言葉が飛び出した。マシンの競争力、チームの組織力、そしてエースドライバーのモチベーション、レッドブルが抱える課題は、今や複数の層にわたって深く積み重なっている。
F1は現在、1か月の休暇期間に入っている。この静寂の中で、レッドブルは何を立て直し、何を決断するのだろうか。休暇明けに再びサーキットへ戻ってきた時、チームはどんな顔を見せるのか。昨年のように鮮やかな巻き返しを演じるのか。それとも、マシンにも組織にも心にも亀裂を抱えたまま、長いトンネルの中でシーズンを終えることになるのか。レッドブルの未来は、まだ霧の中にある。
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