ハジャーのマイアミ惨敗で見えた、レッドブル“セカンドシート問題”の本質―角田裕毅は間違っていなかったのか
アイザック・ハジャーのマイアミGP週末は、2025年に角田裕毅が直面していた問題を改めて浮き彫りにした。
レース後、チーム代表のローラン・メキース氏は、ハジャーの週末について「ドライバーだけの問題ではなかった」と認めた。スプリント予選での車両規定違反、決勝序盤のクラッシュ、そして開幕4戦でわずか4ポイント。結果だけを見れば厳しい内容だが、その背景にはレッドブル陣営が抱える構造的な問題も透けて見える。
そして、その構図は2025年に角田が訴え続けていた内容と少なからず重なっている。
マイアミで起きたこと
土曜日のスプリント予選後、ハジャーのマシンは車両規定違反で失格となった。FIAはバージボード周辺の寸法が規定値を2ミリ超えていたことを確認。メキース氏はこの件について、チーム側のミスだったと説明している。
ピットレーンスタートとなった決勝では、ハジャーは5周目にターン14/15のシケインでクラッシュ。左フロントサスペンションを破損し、セーフティカー導入の原因となった。本人もレース後、「非常に愚かなミスだった」と認めている。
メキース代表の告白

ただし、週末全体を振り返ったメキース氏は、土曜日も日曜日も「チームとして十分な環境を与えられなかった」と語っている。特にクラッチの挙動やコーナー進入時のグリップを具体的な問題点として挙げ、この課題を抱えているのはグリッド上でレッドブルだけだと認めた。
その言葉を注意深く読むと、少なくとも2つの重要な告白がある。
第一に、レッドブル自身が、現在のマシンについてドライバーに十分なツールを提供できていないと認めたことだ。第二に、その問題がレッドブル特有のものだとチーム側が認識している点である。
2025年、国際メディアやパドックでは、角田の苦戦は本人の適応力不足として語られることが多かった。しかし2026年、同じシートに座った別のドライバーが似た問題に直面し、さらにチーム側もマシン特性の難しさを認め始めたことで、角田の発言は違った意味を持ち始めている。
少なくとも、角田が訴えていた問題は単なる言い訳ではなく、実際にドライバーが感じていたマシン特性の難しさだった可能性は高い。
2025年に角田が置かれていた状況

2025年、角田は第3戦の日本GPから急遽レッドブルへ昇格した。準備期間はわずか数日。十分なテストもなく、長年マックス・フェルスタッペンのドライビングスタイルに最適化されてきたマシンへ乗り込むことになったのだ。当時、フェルスタッペン自身も「問題はセカンドドライバーだけでなく、マシンにもある」とコメントを残していた。
数週間が経つ頃には、チームから求められるものも変わり始めていた。クラッシュを避けること。パーツを破損させないこと。シャシーを守ること。徐々に、結果よりも“壊さないこと”が優先されるようになっていった。
そして、これまで多くのレッドブルのセカンドドライバーが直面してきた状況へ近づいていく。フェルスタッペンを中心に開発されたシャシーに適応しながら、なおかつミスを許されない環境だ。
2025年シーズン終盤には、角田の苦戦は完全に“ドライバー側の問題”として扱われるようになる。国際メディアでは、ホンダとの関係が昇格を後押ししたという見方も広がり、純粋な実力への評価は次第に厳しくなっていったのだ。
そして2026年、レッドブルは新たにハジャーをセカンドシートへ送り込む決断を下した。
4戦後のスコアボードが示すもの

開幕4戦を終えた時点で、ハジャーの獲得ポイントは4。フェルスタッペンとの差はすでに大きく開いている。マイアミでは自滅的なクラッシュもあり、さらにチーム側はマシンのセットアップや挙動面に課題を抱えていることを認め始めた。
一方で、ハジャーはプレシーズンの段階では「今回は違う」「新しいレギュレーションが新しい時代をもたらす」と前向きに語っていた。新世代マシンによって、セカンドドライバーが置かれる状況も変わるという期待感があったのは確かだ。
しかし現時点では、その期待が完全に実現しているとは言い難い。
そして何より重要なのは、2025年に角田が直面していた問題が、単純にドライバー個人だけの課題ではなかった可能性が強まっていることだ。
攻撃的なドライビングスタイルでも、十分な準備期間があっても、新しいレギュレーションになっても、なおセカンドシート側が同様の難しさに直面している。その現実は、レッドブルの問題が単なるドライバー選択だけでは説明できないことを示している。
マシン特性なのか。開発の方向性なのか。あるいはチーム構造そのものなのか。
少なくとも今、角田が訴えていた難しさは、以前よりもはるかに説得力を持って受け止められ始めている。
繰り返されるパターン―セカンドシート問題は偶然ではない

フェルスタッペン時代にレッドブルでセカンドシートを任されたドライバーたちを振り返ると、共通する傾向が見えてくる。
ピエール・ガスリーは2019年に昇格したが、シーズン途中で降格。アレックス・アルボンは2019年末に昇格し、2020年末にシートを失った。セルジオ・ペレスは長期間にわたってチームを支えたものの、契約を残したまま2024年末で離脱。リアム・ローソンは、2025年開幕からわずか2戦で角田にチャンスを譲る形となった。
そして角田もまた、2025年に昇格し、1シーズンでレギュラーシートを失った。
もちろん、それぞれ事情は異なる。経験不足、プレッシャー、マシン適応、結果不足――理由はひとつではない。ただ、それでも共通しているのは、レッドブルのセカンドシートが極めて特殊な環境であることだ。チームの開発は基本的にフェルスタッペンを中心に進み、セカンドドライバーには短期間で結果を出すことが求められる。適応のための時間は限られ、結果が伴わなければ評価は急速に厳しくなる。その構造が、これまで何度も同じようなパターンを生み出してきたのかもしれない。
ハジャーは角田とは違う形で苦しむ可能性がある

ここで興味深いのは、角田とハジャーではドライバーとしての性格や立ち位置が大きく異なることだ。
角田は2025年、厳しい状況の中でも比較的チームに協力的な姿勢を崩さなかった。プレッシャーを受けながらも走り続け、公の場でチーム批判へ踏み込むこともほとんどなかった。
一方のハジャーは、より攻撃的で自己表現の強いタイプだ。予選ではパドックを驚かせるような速さを見せるが、限界を攻めるスタイルゆえにリスクも大きい。マイアミでのクラッシュは、その両面を象徴する場面だったとも言える。
そして、両者には置かれている環境の違いもある。
角田にはホンダとの関係や、長年彼を支えてきたフランツ・トスト氏のような存在もあった。だがハジャーには、そうした後ろ盾が比較的少ないように見える。レッドブル内部で彼の成功に強く結びついている人物は、角田時代ほど明確ではない。
さらに、ハジャーの昇格はメキース氏主導ではなかったという見方もある。結果が出なかった場合に、彼を守る立場の人物がどこまで存在するのかは不透明だ。
その点で、メルセデスによるキミ・アントネッリの育成アプローチは対照的だ。
トト・ヴォルフ代表はマイアミで、若手ドライバーのレース週末をどのように管理しているかについて語っていた。メルセデスは、アントネッリがF1デビューを迎える前から、周囲のプレッシャーを可能な限り軽減する環境づくりを進めてきた。メディア対応やスポンサー活動を含め、若いドライバーが段階的に経験を積めるよう組織全体で支えている。
しかしレッドブルは、F1で最もプレッシャーの大きいシートのひとつに若手ドライバーを送り込み、短期間で結果を求める文化を持っている。
それがレッドブルの成功を支えてきた競争文化であることは間違いない。だが同時に、その環境は若手ドライバーにとって極めて過酷でもある。
次に何が起きるのか

残り18戦。今後もレッドブルの開発の中心にいるのはフェルスタッペンだろう。実際、現在も最大のポイントと結果を持ち帰っているのは彼であり、タイトル争いの希望もフェルスタッペン側に依存している。
そのため、メキース氏が認めたセットアップや挙動面の問題についても、まずはフェルスタッペン基準で改善が進められていく可能性が高い。
そして、ハジャーのフラストレーションが高まり、彼の攻撃本能が誤った種類のインシデントを生み出し始めたら、チーム側の要求も徐々に変化していく。完走を優先すること。リスクを抑えること。パーツを守ること。
これは、2025年に角田が経験していた流れとも重なる部分がある。シーズン序盤は限界を求められ、結果が不安定になると、次第に“壊さず持ち帰ること”が重視されていく。その中で角田は、守備的な要求をある程度受け入れ、完走を重ねながら適応を試みていた。
ただ、ハジャーは角田とはタイプが異なる。彼の最大の武器は、限界を恐れず攻め込む姿勢にある。予選で見せる一発の速さや、思い切ったアプローチこそが評価されてきた部分でもある。
だからこそ、もし“リスクを抑えた走り”を求められる状況になった場合、それが彼本来の強みを削いでしまうかもしれない。攻撃性を維持すればミスのリスクが高まり、抑えれば本来の速さが消える。そのバランスをどこで見つけるのかは、今後ハジャーにとって大きな課題になっていくかもしれない。
結論―問題はドライバーだけではない

マイアミで露呈したのは、ハジャー個人のミスだけではない。レッドブルのセカンドシートが抱える構造的な難しさでもあった。
ハジャーの才能に疑いの余地はない。そして同じことは、2025年の角田にも言えたはずだ。
にもかかわらず、フェルスタッペン時代のレッドブルでは、セカンドドライバーが繰り返し同じような苦境に直面してきた。経験不足やプレッシャーだけでは説明しきれない共通点が、そこには存在している。
問題は単純な“ドライバー選び”だけではないのかもしれない。
チームの開発は一貫してフェルスタッペンを中心に進められ、セカンドドライバーには、自分に最適化されたわけではないマシンで短期間のうちに結果を求められる。その構造自体が、極めて難しい環境を作り出している。
振り返れば、2026年も角田を継続起用するという選択肢には一定の合理性があったようにも見える。角田は2025年後半、徐々にマシンへの理解を深め、プレッシャーの中でも完走と結果を積み重ね始めていた。
もちろん、フェルスタッペンとの差が消えていたわけではない。だが少なくとも、チームが求める役割を理解し、その環境への適応を進めていたのは確かだった。
それでもレッドブルは、新たにハジャーという別の才能へ賭ける決断を下した。
そして今、ハジャーもまた、レッドブルのセカンドシートが持つ独特の難しさと向き合い始めている。
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