ペレスはロズベルグがハミルトンを破ったことから何を学べるか?
セルジオ・ペレスは2024年、マックス・フェルスタッペンのチームメイトとしてレッドブルで4年目のシーズンを迎える。新シーズンが近づくにつれ気になるのは、ハミルトンとロズベルグの有名なメルセデスチーム内バトルからペレスが学べることはあるのだろうか?
ペレス、ビッグイヤーへ
フェルスタッペンのチームメイトとして、ペレスは間違いなくF1で最も困難な仕事のひとつを担っている。
この3年間、フェルスタッペンはキャリア最高のマシンをドライブし、F1史上最高のドライバーの1人と広く評価されており、比較基準を全く違うレベルへと押し上げてしまった。
とはいえ、2021年と2022年に3連勝、表彰台、初ポールポジションという結果を残したペレスは、2023年シーズン序盤にチームメイトとの戦いに挑む準備が整ったことをうかがわせた。
実際、最初の4レースで2勝(アゼルバイジャンでのグランプリとスプリントのダブル優勝を含む)を挙げたペレスは、ドライバーズランキングでフェルスタッペンとわずか6ポイント差に迫っていた。
きっかけとなったマイアミ
一見すると、マイアミではフェルスタッペンに次ぐ2位という結果は十分なものに見える。しかし、フェルスタッペンがQ3でタイムを出せなかった事から9位でスタートしたという事を考えると、チーム代表のクリスチャン・ホーナーいわく、この結果はペレスにとって「大きな心理的打撃」となったという。
その後、ペレスは5戦連続で予選終盤に進出することができず、モナコGPではQ1敗退を喫し、クラッシュ後に吊り上げられたRB19のフロア下をライバルチームに公開するという結果に終わった。
ペレスはこれらのミスのいくつかを修正し、最終的にランキング2位の座を確保したものの、モナコからアブダビまでの平均グリッドはフェルスタッペンの2.4グリッドに対して10.4グリッド、チームメイトの16勝に対して彼は未勝利だった。
年末になり、 ペレスは次のように振り返っている。「もちろん、今年は本当に力強くスタートしたが、シーズン半ばにはちょっとした調子の上がり下がりがあった。でも、あきらめずにチームとして団結し、僕を支えてくれたチーム全員に感謝したい。」
「とてもタフな時期を過ごしたけれど、チーム史上最高のシーズン(コンストラクターズタイトルとドライバーズ選手権でのワン・ツー)を手にすることができた。また、難しい状況からは学ぶべき点も見つかったから、来シーズンからはさらに強くなって戻ってくるよ」
ロズベルグがハミルトンと対峙したとき
しかし、予選を改善し(ホーナーは「彼がレースで素晴らしいペースを持っていることも分かっている」と強調)、レッドブルの新たなマシンとの一体感を高める以上に、ペレスが過去から学べることはあるのだろうか?
昨年フェルスタッペンがペレスに記録的な大差をつけて優勝したことに比べれば、ドライバーズランキングの差ははるかに小さいことは言うまでもないが、ロズベルグは2013年、2014年、2015年とハミルトンに何度も敗れてきたという点で、2016年シーズンもほぼ同じような課題に直面していた。
引退後に『Beyond The Grid』に出演したロズベルグは、ハミルトンとどのように折り合いをつけ、コンスタントに高いレベルに到達し、最終的にはハミルトンを上回る結果を出すことができたのかについて詳しく語った。
ロズベルグは、カートのチームメイトとしてよく知られるようになった後、F1で再びハミルトンと組むことになったとき、「メディアやチーム内部での彼の強さなど、それまでとが異なる側面もあった」と認めている。
「カートは純粋なドライビングだけで、F1ではそれに多くのものを加えることができる」とロズベルグは続けた。「献身、アプローチ、小さなものの積み重ねなど。だから僕は本当に強くなれたんだと思う」
100分の1の追求
昨シーズンの開幕から5戦を振り返り、レッドブルの両ドライバーが力を出し切ったグランプリとスプリントの予選セッションのみを使用した場合、2人のラップタイムを合計すると、ペレスはフェルスタッペンにわずか0.099秒差に迫っていた。
この結果は、ペレスがシーズン序盤に非常に大きな力を発揮していたことを示すだけでなく、F1では数百分の一の差がいかに重要な勢いを生み出すかを浮き彫りにしている。
2024年にペレスがこのようなペースをより頻繁に発揮することができ、劇的な落ち込みを避け、レッドブルのアップグレードの流れにうまく対応することができれば、ロズベルグがトム・クラークソンとの会話で口を開いた他の要素がより重要になるかもしれない。
自らを軽量化
ロズベルグが最初に挙げた例では、トレーニングと軽量化が中心だった。
2016年のサマーブレイクをハミルトンから19ポイント差で迎えるにあたり、シーズン前半を反省したロズベルグは筋肉を削ぎ落とし、体重を減らすためにサイクリングを断念した。
2016年の鈴鹿でポールポジションを獲得したロズベルグ。1ヵ月の休暇後、彼の絞り込まれた脚は本領を発揮し、ベルギー、イタリア、シンガポールで勝利を収め、日本でも鈴鹿で0.013秒という僅差でポールポジションを獲得した。
「マシンの重量が重たかったから、体重は本当に重要だったんだ」とロズベルグは説明する。「シーズンの途中でダイエットをすることはできない。精神的な負担が大きすぎるからね」
「唯一の解決策は、自分で考えた結果、脚の筋肉を落とすということだった。そして夏休み明けに鈴鹿に行き、100分の2秒差でポールポジションを獲得した。」
「レースで勝ったことで、ルイスの頭が少し混乱したんだ。これはチャンピオン獲得への決定的な一歩だった。」
2019年にはF1ドライバーの重量制限が導入され、F1の最重量ドライバーと最軽量ドライバーの公平性が保たれるようになった。この面で、同じ戦略からペレスが得られるマージンは少なくなったが、ロズベルグが僅かなチャンスを得るためにどれだけ努力していたかがみて取れる。
最後まで手を抜かない
しかし、それだけにとどまらなかった。
先ほども触れたように、ロズベルグはハミルトンとのギャップを埋めるため、そして前に出るために、自分のパフォーマンスに貢献したすべての要素を見直し、可能な限りの改善に取り組んだ。
こうした変化はラップタイムやコックピットでのロズベルグの快適さといった目に見える成果をもたらしただけでなく、チームメイトの頭に疑問を浮かびあがらせたという。つまり、肉体的な変化で精神的な影響を与えることができたという事だ。
「その年のもうひとつの大きな出来事はグローブだった」とロズベルグは続けた。
指とクラッチパドルの間にある縫い目や継ぎ目のようなものを取り除き、最高のフィーリングを得るために、可能な限り薄くしたんだ。」
「僕のグローブを標準的な(製造)方法から、自分だけのためにカスタムメイドに変更したことは僕にとって大きな助けとなった。」
「ルイスは、どうして僕があんなにスタートがうまいんだろうかと不思議がっていたよ。」
メンタルの強さを最大限に引き出す
前述したような変化による間接的な効果も結果に一役買っているが、ロズベルグは全体としてメンタル面を、そして自分自身のマインドをコントロールすることを非常に重要視していた。
ロズベルグは心理学者と何年も共に仕事をしており、2016年には2時間のセッションで週が埋まっていたこともある。
「自分自身について学び、人生への取り組み方を学び、襲ってくる感情に対処する方法を学んだ。」
「感情を完全にシャットダウンすることはできない。しかし、その感情を理解し、なぜその感情がそこにあるのかを理解すれば、より良く、より適切に反応することができる。」
ロズベルグはこのことが彼の人生とキャリアに大きな効果をもたらしたと付け加え、「アブダビでの最後の4周を除けば、どこにでも当てはまる」とジョークを飛ばした。
それはペレスも同様に取り入れているようで、オランダの『De Limburger』紙との最近のインタビューでは、2023年の苦闘の中でメンタルコーチに助けを求め、人間としてもドライバーとしても「最高の自分」になることを目指したと明かしている。
可能な限りフレッシュに
2024年、F1は記録的な24戦のグランプリを開催することになっており、異なるタイムゾーンへの移動が多く、時差ボケという長年の課題もある。
2016年のF1カレンダーはすでに多忙を極めており、当時は21レースが開催されていた。ロズベルグはサーキットでもサーキット以外でもトップを走り続けたいという思いから、ハーバード大学の睡眠専門医にアドバイスを求めた。
日課をどのように更新したかについて、ロズベルグはこう語った。「例えばオーストラリアに行くなら、5日前から(睡眠時間を)1時間半ずつずらして、渡航する時には7時間半ずれているようにする。」
「こういった調整の最終日には朝1時とか、その逆とか、とにかくとんでもない時間に起きるんだ。妻は僕を見て、『完全に頭がおかしくなったの?正気を失ったの?』と言っていたよ。」
「午前3時半か4時にはモナコで走っていた。それから飛行機に乗り、着陸して、現地に着いたらまた1時間半のステップを踏む。すぐに合わせようとはしないんだ。」
ロズベルグは時差ボケの影響を一度も感じることなくシーズンを終えたと語り、以前は世界中を周遊しながら眠りにつくのに「本当に苦労した」としながらも、それを「僕の人生にとっての革命」と表現した。
仕事と生活のバランスを見つける
こうした肉体的、精神的な努力のなかでは、ロズベルグに他のことをする時間は残されていないと思われても仕方がない。
しかし、スイッチを切ってリラックスすることも同様に重要であり、人生における最適な幸福と仕事における最適なパフォーマンスをもたらす「完璧なバランス 」を生み出すのだとロズベルグは明言した。
「より良い生活はより良いパフォーマンスとイコールであることを学んだ。これは故F1ドクター、アキ・ヒンツァが常に説いていたスローガンのひとつだ。」
「それを理解することを学んだし、優勝した年は、人生のバランスを完璧にとることに集中した。」
「ハードに働くこともあるけれど、家族や友人と過ごしたり、のんびりしたり、リラックスしたりと、精神的にも回復する時間を確保すること。最後の年は本当にうまくいったよ。」
肉体的にも精神的にもロズベルグを最高のパフォーマンスへと押し上げ、2016年シーズン終了後に引退するという大胆な決断を下したロズベルグにとって、努力は計り知れないものだった。
ペレスにとって、そして彼のF1の将来にとって重要な年となる今年、ロズベルグにならい、世界一のチームメイトに何かを考えさせるために必要なものを彼が持っているかどうかは、時間が経つにつれて明らかになるだろう。
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