【PUから紐解く】ホンダ×アストンマーティンの2026年戦略は?─その“音”と2026年の本質
グリーンのアストンマーティンにホンダ製エンジン(PU)のサウンドが響くのは、これが初めてとなる。これは単なるエンジン供給の契約ではない。ホンダにとってはワークスパートナーとしての本格復帰であり、アストンマーティンにとっては2026年にすべてを賭ける決断でもある。
AMR26に搭載されるホンダ製エンジンが、初めて咆哮を上げた瞬間だ。改めて、その音を聞いてみてほしい。
V8でも、V10でもない。それでも、ハイブリッド時代のパワーユニットとしては、非常にシャープなサウンドを持っている。シフトダウンはクリアで、攻撃的で、とても力強い。
そして何より重要なのは、ホンダがこの音を、あえて早い段階で世界に公開したという事実だ。それだけで、多くのことが読み取れるだろう。
理想が現実となったアストンマーティン

なぜなら、2026年は「音」だけの話ではないからだ。本質は構造にある。アストンマーティンは新レギュレーションを迎えるにあたり、これまで本当の意味では持ち得なかった要素を、初めてすべて揃えたのだ。
・フルワークスのエンジンパートナー
・新設されたファクトリー
・自前の風洞施設
・妥協なく設計に専念するエイドリアン・ニューウェイ
シャシーからサスペンション、パワーユニットに至るまで、単一の哲学に基づいて構築される初めてのアストンマーティン。その中心にいるのが、ニューウェイ氏である。
注目すべきは、ニューウェイ氏が最初に着手した領域だ。それはボディワークでもウイングでもなく、サスペンションだった。この事実は、パドック全体が注視すべきポイントである。2022年から2023年にかけて、レッドブルがアンチダイブ/アンチスクワットの概念で築いた優位性は記憶に新しい。現在、アストンマーティンはリアサスペンションを自社開発しており、ニューウェイ氏は設計の自由度と完全なコントロールを手にしている。
空力は進化する。しかし哲学は変わらない。それが、“エイドリアン・ニューウェイ”という存在だ。
ホンダの新しい戦い方

今回のホンダは、これまでとは明らかに異なる。
HRCの渡辺浩司社長は、ニューウェイ氏と頻繁かつ技術的なコミュニケーションを取っていることを公に認めている。それは形式的な会合ではなく、勝利を目的とした実務レベルの議論だ。
ホンダは、このパワーユニットが2026年にレースで勝てると信じている。その根拠のひとつが、“バッテリー技術”だ。
ホンダは世界最高水準のバッテリーシステムを有していると自負する。レッドブル時代、ERSの展開性能が直線での優位性を生み出したことは周知の事実だ。
2026年の新レギュレーション下では、エネルギーマネジメントの重要性がさらに増す。いつ、どこで、どう展開するか。ホンダはその分野を知り尽くしている。
そして、もうひとつの重要な要素が“燃料”である。アラムコはすでにF2で持続可能燃料を供給しており、その知見は2026年に直結する。
燃料の化学組成は、パワーユニット全体の効率と出力特性を左右する。ホンダは単なるエンジンメーカーではなく、エネルギーシステム全体を構築する企業なのだ。
ドライバーにとっての“2026年の本質”

ドライバーの視点でも、2026年は特別な年となるだろう。
フェルナンド・アロンソはすでに、「2026年は完全なリセットだ」と語っている。施設、人材、体制は整った。重要なのは開幕数戦で、そこでシーズンの流れが決まるという認識だ。
さらに彼は、経験がこれまで以上に武器になるということも理解している。エネルギー配分、ステアリング操作、シミュレーション作業。ドライバーの技術的理解度がマシン性能を左右する。アロンソはその点で、グリッド屈指の存在だ。
一方で、避けて通れない問題もある。日本人ドライバーの起用だ。
ホンダは優れた育成システムを持つ。岩佐歩夢、角田裕毅はいずれもその成果である。
しかし現実として、ランス・ストロールがアストンマーティンのレースシートを保持する限り、日本人ドライバーがそのコックピットに座る道は存在しない。これは能力の問題ではなく、構造の問題だ。
ホンダが見据える次の一手

だからこそ、ホンダはすでに先を見ている。2つ目のカスタマーチームの獲得だ。
現在メルセデスは、メルセデス、マクラーレン、ウィリアムズ、アルピーヌの4チームにPUを供給しており、トト・ヴォルフ氏も「余力はない」と明言している。
そこに隙間が生まれる。もしホンダが競争力と信頼性を証明できれば、関心を示すチームは現れるだろう。
アストンマーティンは旗艦である。しかし、それが唯一の行き先とは限らない。
その先に、日本の才能あるドライバーがF1で戦う未来がある。ホンダはすでに、その景色を見据えている。
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