「ギュンター・シュタイナーになりたいわけじゃない」小松礼雄が語るハースの新章と今後の目標

小松礼雄が大きな仕事を任された。日本人エンジニアとしてこれまで素晴らしい仕事をしてきた小松は、今シーズン、ギュンター・シュタイナーの後任としてハースF1チームを率い、初めてチーム代表の座に就く。

それは容易なことではないだろう。チーム運営はイギリス、アメリカ、イタリアの3カ所に分かれ、シャシーはダラーラから、エンジンを含むパーツはフェラーリから、そしてエアロはマラネロのオフィスにある自社のデザインチームから調達するというモデルを採用している。

2016年のデビュー以来チームに在籍し、チーフエンジニアを皮切りにいくつもの役職を経験してきた小松は、20年にわたるモータースポーツの経験とともに、このユニークなオペレーションがどのように機能するかを核心的に理解し、ビジネス全体を通して人々と関係を築いてきた。

「ポジティブなサポートに圧倒されている。」と、小松はバンベリーにある英国拠点で、少人数の報道陣を前に新天地獲得後初のインタビューに応じた。

「みんな本当に前向きで、興奮し、サポートしてくれている。だから、今いるメンバーで何ができるか、とても楽しみにしている。」

「才能があり、質の高いスタッフがたくさんいることは知っているので、彼らがベストを発揮できるような環境と枠組みを提供したいと心から思っている。だから本当に興奮しているよ。」

ハースの新章

シュタイナーは、チームをゼロから作り上げる上で重要な役割を果たし、昨シーズンの終わりまで指揮を執った人物だ。小松はまったく異なる人物像のように感じるが、彼はそれを気にしていない。

「もちろん、ギュンター・シュタイナーになりたいわけじゃないよ。」

「彼はまた違った性格をした人物だけど、正直に言って、私たちはとても仲が良いんだ。お互いに尊敬しているし、仕事中も仕事以外でもお互いの立場や役割を尊重し合っている。また、夕食にもよく一緒に行った。仕事の話をするためではなくね。とても仲が良いから。でも、ギュンター・シュタイナーという人物の代わりをするためにここにいるわけではない。」

「ご存知のように、彼は私とはまったく違う性格で、長所も短所もまったく違う。私は他の誰かになりたいわけではないし、ジーンもそれをわかっている。もしジーンがギュンター・シュタイナーの代役を望むのであれば、他の誰かを起用しただろう。だから、ジーンが違うものを求めていることは理解しているし、他の誰かになろうとするのではなく、自分自身の最高のバージョンになろうと思っている。」

経営幹部の強化

小松は自分がチーム代表の経験がないことを認めているが、オーナーのジーン・ハースと話をするうちに、彼が戦術を変え、より技術に特化したリーダーを置きたいと考えていることが明らかになったようだ。そして、それ以外の分野を担当する別のポジション(おそらくチーフ・オペレーティング・オフィサーと呼ばれる)を募集することになる。

「この機会を与えられたとき、私はジーンにこうはっきり言ったんだ。『私の専門知識を知っているはずだから、私がマーケティングに専念してスポンサーシップを得ようとしても意味がない』その分野では、その分野の専門家である他の誰かに運営を任せて、私は技術面に専念し、チームの技術面を向上させることができるような組織を作ることが出来る。」

「しかし同時に、過去に私がどのような仕事をしてきたのかというと、その時任されている仕事をするときは常に、今やっている仕事でベストを尽くそうとすることだ。あることが改善されたら、どうすればもっといい仕事ができるか?とね。」

「だから、前の仕事をしていたときでも、もちろんこのチームは私にとって大きな意味があった。このチームが持っているポテンシャルを知っているから、ある分野では『ああ、もっと違うやり方があるかもしれない』などと思える。そういう意味では、アイディアに事欠くことはない。だから、チームを向上させるために見直すべき点はたくさんある。」

また、チーフ・オペレーティング・オフィサー(COO)の職務内容を具体化し、適切な人材を見つけるための話し合いが続けられている。できるだけ早くCOOを迎え入れたいと考えられているが、決定を急ぐつもりはないようだ。

「現時点でCOOがいないからといって、私たちのスピードが落ちるわけではない。」

「しかし、今後を考えれば、COOが必要なのは明らかであり、その人物はその分野を首尾一貫して運営する必要がある。しかし、急ぎすぎてよくわからないものに落ち着くよりは、適切な人選をしたほうがいい。」

というのも、小松は英国にいるチームとは話をしたが、イタリアにいるチームとはまだ顔を合わせておらず(すぐにミーティングのためにイタリアに飛ぶ予定)、公になる前に社内ですべてを明らかにしたいと考えているからだ。

現在あるものを修正することが最初の行動計画

しかし、短期的には劇的な変化は期待できない。なぜなら小松は、今あるもので効率を上げることができると考えているからだ。

「今あるもので、もっといい仕事ができるはずだ。」

「人材がいて、アイデアがあって、それをまとめれば、もっといい仕事ができるはずなんだ。」

「そして、『OK、今あるもので最大限の力を発揮し、効果的なレーシングチームになる』という段階に達したら、次の段階として『OK、限界だ。これでは不十分だろうか?』という段階になる。だから、まずは今あるものを確実に向上させることに集中しているんだ。」

今年、小松は現時点を “移り変わり時期”ととらえ、ジーンとともに長期的なプランに取り組み、チームの成長と運営方法においてライバルに遅れをとらないようにしていくつもりだ。

「2024年の1年間を通じて学ぶことは、5年後、8年後、10年後の私たちの行動を明確に定義するのに役立つと確信している」と彼は言う。

小松が取り組みたいと考えている分野のひとつがコミュニケーションだ。コマツは、ハースが異なる拠点に分かれているため、この分野では常に課題を抱えていることを認めている。

「もちろん、意見の相違はどこにでもある。それは当然のことだ。しかし、前進するためには、『OK、Xはこう言った、Aはこう言った、私は反対だ、しかし、私たちはすべての意見の相違に対処し、チームとしてこの方向に進むことに決めた』ということを全員が知る必要がある。だから、繰り返しになるけど、コミュニケーションが大切なんだ。」

最下位は避けたいハース

2026年のルール変更は、他のライバルたちと同様、ハースにも困難な時期を乗り越えて一歩前進する機会を与えるが、小松はジーンが早急な進歩を望んでいるため、改善を示すまでにそう長くは待てないことを知っている。

「今のところ、ジーンはグリッド後方からの脱出を望んでいる。」と小松は言う。「ジーンがどれほど不満だったかは、あなたも見聞きしたはずだ。もちろん、最下位で戦って誰が満足するんだ?と思うよね。恥ずかしいことだよ。」

「だから、ジーンが今の順位に満足していないのは当たり前で、むしろポジティブことだと思う。もしチームのみんなが、”よし、僕たちは最下位だ、これからどこへ行くのかわからない。ジーンは何も言わない”ということは、ジーンは10番手であることに満足しているのだろうか?それは明らかに違う。だから、ここにいる全員がやる気になるんだ。ジーンは本気で、チームを良くしたいと思っている。」

また、小松はジーンが時間を与えてくれると信じている。

「ジーンに関与してもらい、我々がここで何を扱っているのかを理解してもらうのも私の仕事の一部だ。」と彼は付け加えた。

ハースは2023年のステップアップに大きな期待を寄せていたが、シーズン中の開発に苦戦し、方向転換を決断したのが遅かったため、10月のオースティンまで最初の大きなアップグレードを行うことができなかった。情報筋によれば、ジーンの自己資金で賄われたこの大規模な新パッケージを試したとき、ニコ・ヒュルケンベルグは旧スペックに戻し、そのほうが速かったことを証明したほどだった。

小松は、チームが昨年のパッケージから最大限の力を引き出すために苦労した点について、多くのことを学んだとポジティブに語っている。

「すべてを理解できたとは思っていない。だが、かなりの部分は理解できたと思う。でも、その証拠となるのは、その問題に対処できるマシンを作れるかどうかだけだ。だから、ここにただ座って100%理解しているとは言いたくない。なぜなのか、どこに焦点を当てるべきなのかは、ちゃんとわかっているつもりだ。」

マシンは2月11日にシルバーストーンでシェイクダウンを行い、21日、プレシーズンテストが始まる2日前にバーレーンで走行する予定だ。そして進歩を遂げたとはいえ、小松は2024年のスタートが厳しいものになる可能性を認めている。

「2024年新型マシンは明確な一歩を踏み出したが、スタートがあまりに遅かったので、競争相手に十分通用するかどうかはわからない。」

「コンセプトを変えたのも遅かったし、実際にオースティンでアップグレードを行ったことで、リソースを少し流用してしまった。バーレーンに持ち込むマシンについては現実的だけど、ネガティブな意味ではないよ。エンジニアたちのせいではない。彼らは本当に優秀だ。」

「僕にとって重要なのは、バーレーンのマシンがどうであれ、どんな問題があったとしても、それを理解し、チームとしてそこから動くことだ。ご存じのように、僕たちは小さなチームだ。団結して動かなければ、我々にチャンスはない。」

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