トヨタ、マクラーレンを通じてF1に復帰か?
2023年日本GPが開催された土曜日。マクラーレンのホスピタリティエリアに”モリゾー”ことトヨタ自動車会長の豊田章男が現れ、パドックにどよめきが起こった。マクラーレンのテストドライバーとして発表された平川亮とともに、地元メディアの取材に応じたのだ。
豊田章男が登場したことで、トヨタがモータースポーツの頂点の舞台に返り咲くのではないか?2026年に新しいパワーユニット規定が適用された後、マクラーレンがチャンピオン争いに挑むのに最適なチームになるのではないか?という憶測が飛び交うのは必至だ。平川との契約は、トヨタのF1復帰への出発点に過ぎない。
平川がマクラーレンのテストドライバーに
マクラーレンは9月22日、日本人レーサーの平川亮が2024年からドライバー育成プログラムに参加。
同時にチームのリザーブドライバーとなることを発表した。
マクラーレンは、29歳の平川がテストプログラムの一環としてチームの2021年仕様のMCL35Mでラップを重ねるとともに、2024年にはトヨタでの仕事と並行してイギリスのマクラーレン・テクノロジーセンターでシミュレーター作業を行うことを明らかにした。
「リザーブドライバーとしてマクラーレンF1チームに加わることができてうれしい。
ザク(ブラウン、マクラーレン・レーシングCEO)とアンドレア(ステラ、マクラーレン・チーム代表)にはこのような機会を与えてもらい、とても感謝している。
すでにチームとは会っているし、MTCでシミュレーターを体験しているので、すぐに走り出すことができる。
2023年の残りのレースに向けて、準備と集中は万全だ。」
と語る平川。
中嶋一貴「復帰は明確にノー」
しかし、トヨタのモータースポーツシニアエグゼクティブアドバイザーを務める中嶋一貴はこう断言している。
「2009年末にワークスチームを撤退させて以来、トヨタにはF1に復帰する計画はない」と。
また、中嶋は記者会見でトヨタのF1への関心について語った。
「この契約はあくまでドライバーに焦点を当て、ドライバーの夢をサポートすることにある。」
トヨタとマクラーレンの関係
トヨタは長年、マクラーレンとケルンにある風洞の使用に関して親密な関係を築いてきた。
しかし、チーム独自の施設が稼働を開始した今夏、その契約は終了した。
マクラーレンがケルンにあるトヨタの風洞を使い始めたのは、トヨタF1チームがグランプリレースから撤退した翌年の2010年。
2011年のレースで優勝したマクラーレンMP4-26の開発に使用されたのを皮切りに、今年のMCL60までずっと使用されてきた。
風洞の利用だけでなく、研究開発や生産能力も活用することで、その関係は年々大きく広がっている。
マクラーレンはまた、トヨタ工場内に専用の作業エリアを設け、独立したデータシステムとウォーキング工場へのリンクを設置した。
両社によると、長年にわたる技術提携は、モータースポーツを象徴する2つの組織の間に緊密な関係を育んできた。
そのため、この協力関係は風洞に関する契約が終了した後も継続されるとのことだ。
マクラーレン・グループが売却
– EVノウハウを持つ買い手を探す
2024年3月、バーレーンの政府系ファンドであるムムタラカットは、マクラーレン・グループの支配株式の売却を検討していると報じられた。
この動きは、長年の財務難とムムタラカットの財務支援への依存によってマクラーレンが苦境に陥ったことを受けてのものだ。
売却の検討・決定は、マクラーレンの赤字が2022年に3億4900万ポンドと2倍以上に膨らんだことを受けて下された。
ムムタラカットは過去4年間にマクラーレンに15億ポンドを注入しており、それには2020年の3億ポンドの緊急資金提供と2021年の10億ポンドの資金調達が含まれる。
ムムタラカットは投資銀行のJPモルガンに対し、電気自動車(EV)製造の専門知識を持つ買い手探しを依頼したと報じられている。
これはマクラーレンの電動化へのシフトを反映したもので、同社は2025年までに初の完全電気自動車を発売する予定だ。
マクラーレンに近い関係者によると、協議は初期段階であり、さまざまな選択肢が検討されている。
中東の情報筋は、ムムタラカットがJPモルガンに対して特に中国企業による買収を検討するように指示したと示唆している。
これは、ロータスなどの他の高級自動車ブランドが中国企業によって買収されたことを受けたものだ。
興味深い可能性として、トヨタがフォルクスワーゲンやフィアットグループと同様の戦略に従い、この象徴的なモータースポーツブランドをグループに加える道を開くことも考えられる。
フォルクスワーゲングループと比較して、トヨタのポートフォリオに高級スポーツカーブランドがないことを考えると、マクラーレンはグループにとって貴重な存在となり、モータースポーツというトヨタのコアDNAを強調することになるだろう。
10年にわたる投資不足により、マクラーレンには明らかに製造能力やR&D施設が不足している。
しかし、トヨタとのパートナーシップを活用することで、マクラーレンの販売数とブランド認知向上が期待できる。
トヨタがマクラーレンを通じてF1に復帰する可能性
トヨタとマクラーレンの間にすでに密接な関係があることを考えると、マクラーレンを通じてF1に再参入することは、理論的にはあり得ると考えられる。
2社の提携は 、両社にとって絶妙な一手とみられている。
最先端技術と豊富なリソースで知られるトヨタは、マクラーレンにこれらの分野でかなりの後押しをするだろう。
一方で、マクラーレンはF1での数十年にわたる経験と専門知識を活かし、トヨタがスポーツに復帰する際に貴重な見識とガイドを提供するだろう。
F1の次世代スーパースターであるランド・ノリスと、ルーキーとして最も高い評価を得ているオスカー・ピアストリという、おそらくグリッド上で最高のドライバーペア。
さらに彼らの周りの非常に有能なマネジメントチームを擁するこの提携は、F1グリッド上で強力な勢力を生み出す可能性を秘めている。
平川亮は2024年に単なるテストおよびリザーブドライバー以上の存在になる可能性がある。
また、F1の歴史上最も強力なモータースポーツの組み合わせの基礎を築くことになるかもしれない。
トヨタのF1の歴史
トヨタは2002年に自社チームで初めてF1に参戦した。
しかし、成功には恵まれず、コンストラクターズランキングでの最高成績は2005年の4位である。
トヨタは競争の激しいレース界で名を上げるため、豊富なリソースと技術力を生かしてF1に参戦した。
同社はこのプロジェクトに年間4億ドル以上を費やしたと噂されている。
この投資の中心はドイツのケルンにあるトヨタの近代的な施設で、2004年に建設された当時は最先端だった。
また、チームの本部は近代的なオフィスにあり、工場には最新の技術が導入されていた。施設には風洞、シミュレーター、ファクトリーが設けられていた。
風洞は当時のF1で最も進んだものの1つだった。
チームの車の空力特性をテストし、新しい空力コンセプトを開発するために使用された。
シミュレーターもまた最先端であり、ドライバーのトレーニングとレース戦略の開発に使用された。
今日まで、これらの施設はマクラーレンの F1の風洞作業を含む多くのモータースポーツプロジェクトに使用されている。
2009年、苦渋の決断で撤退
長年にわたりポテンシャルを発揮し、称賛に値するパフォーマンスを幾度となく達成してきたものの、トヨタのF1プロジェクトは数々の課題に直面した。
チームは順位を押し上げるために必死で戦ったが、常にトップの座を確保することはできなかった。
トヨタが2009年シーズン末にF1から撤退するという苦渋の決断を下した背景には、リーマンショックによる世界的な金融危機が大きい。
戦略的優先順位の再評価というプレッシャーの中で、その決断に至ったのだ。
また、F1への参戦コストの上昇や他のモータースポーツの分野に集中するという方針など、複数の要因にも関係している。
F1での活動期間中、トヨタは選手権で優勝することはできなかった。
しかし、高いレベルで競争できることを証明し、注目すべき成功を収めた。
主なハイライトを以下に示す。
表彰台フィニッシュ
トヨタはF1参戦中に表彰台に何度も上がった。
最も印象に残る瞬間の一つは、2005年にヤルノ・トゥルーリがマレーシアGPで2位を獲得し、トヨタにF1初の表彰台をもたらしたことだ。
これはチームのポテンシャルを示す重要なマイルストーンだった。
ポールポジション
トヨタはポールポジションも獲得し、予選1周あたりの速さで競争できる能力があることを証明した。
2005年アメリカGPでのヤルノ・トゥルーリのポールポジションは、トヨタのエンジニアリングとパフォーマンスを示す際立った成果だった。
ファステストラップ
チームは様々なグランプリでファステストラップを記録し、彼らの競争力をさらに証明した。
レースでファステストラップを記録することは、車のスピードだけでなく、レース条件下でパフォーマンスを最適化するチームの能力も示している。
入賞
トヨタのマシンは一貫して入賞圏内でレースを終え、コンストラクターズランキングでの順位に貢献した。
最高年だった2005年にはコンストラクターズランキングで4位を獲得し、より上位の名門チームに挑戦する彼らの進歩と能力の証となった。
2009年シーズン
2009年末での撤退を発表した後も、その年トヨタは好調なシーズンを送った。
オーストラリアGPで2位、バーレーンGPで3位など表彰台を数回獲得し、フロントロウで競争できる強豪チームになったことを証明した。
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