角田はついに手放せない存在となったのか? メキシコでの決定的な週末
レッドブルの日本人ファンの期待を背負ってメキシコに降り立った角田裕毅は、それ以上のものを携えていた。冷静さと自信、そしてF1という過酷な環境で生き残り、ひいては成長する術を学んだドライバーの静かな決意だ。
新たなレベルの成熟
木曜日の記者会見での角田の発言は、慎重かつ落ち着いたものだった。かつて感情的な無線発言で知られた激しいルーキーの姿とはかけ離れている。契約状況について問われると、彼はこう語った。「レッドブルファミリーに5年間いて、仕組みは理解している。ただひたすら実力を証明し、与えられた機会を最大限に活かすだけだ」

それは単なる定型的なコメント以上のものだった。自己認識と進化の宣言を示すものだった。角田はマシンの技術的細部だけでなく、レッドブル内部を支配する政治的力学をも理解するドライバーへと成長した。「マックスが1位を獲得する可能性を高める手助けができれば、それが自分の役割だと理解している」と彼は説明した。
角田は“マックス・フェルスタッペンが最優先で、ほかの全員がフォローする”というレッドブルの内部ヒエラルキーを完全に認識している。しかし彼はフラストレーションではなく、冷静なプロ意識をもってその中で行動することを学んだ。
周囲の雑音
その成熟度はほぼ即座に試されることとなった。金曜日のフリー走行中、レッドブルのジュニアドライバーであるアービッド・リンドブラッドがFP1でフェルスタッペンのマシンに乗った際、誤解を招く比較がネット上で急速に拡散。完全に異なる条件と目的のもとで記録されたルーキーのラップタイムが、角田の評価を下げているかのように示唆されたのだ。一部の欧州メディアはさらに踏み込み、金曜日の角田の技術的フィードバックがフェルスタッペンのセットアップ方向に影響を与え、チャンピオンの予選苦戦の一因となったとほのめかした。レッドブルはこの非難を静かに、しかし断固として退けた。

角田にとって、この出来事は見慣れた領域だった。彼は長年、自身の能力を疑問視する論調や、ホンダからの優遇を示唆する主張の格好の標的となってきた。しかし今回、彼は感情ではなくパフォーマンスで応えた。
静かなるコントロールの週末
予選から決勝まで、角田は着実な走りを見せた。Q3進出をわずか100分の数秒差で逃すも、ラップを重ねるごとにタイムを向上させ、プレッシャー下での精度向上を示す結果となった。
決勝ではクリーンなスタートを切り、オープニングラップの混乱を回避。ミディアムタイヤでフェルスタッペンに匹敵するラップタイムを維持した。
レース序盤の重要な局面で、角田はレッドブルのチャンピオンシップ戦略における役割を完遂。オスカー・ピアストリのソフトタイヤ攻勢を食い止め、マクラーレンの追い上げリズムを乱した。この動きは最終的に、フェルスタッペンの優位性のために自らのレース展開とポイント獲得の可能性を犠牲にする結果となった。

しかしその後、最も冷静なドライバーでさえ試される事態が起きた。レッドブルのチーム代表であるローラン・メキース氏が後に技術的故障と認めた遅く混乱したピットストップが、規律ある走りを貴重なポイントに変える可能性を完全に消し去ったのだ。
「いいポイントを獲得できる絶好のチャンスだった」と、角田はその後、非難ではなく外交的な表現を選びながら語った。「しかし、それがレース。そういうことはある」
角田の冷静な反応は、どんな結果よりも雄弁だった。それは、レッドブルの中で挫折にどう対処するかが、どれだけ速く走るかと同じくらい重要であることを、彼が理解していることの証だった。
大局的な見方
角田の課題と成果は、適切な文脈で捉える必要がある。カルロス・サインツやルイス・ハミルトンといったトップドライバーでさえ、2024年のアブダビGP終了後にオフシーズンをフルに活用して準備を行ったにもかかわらず、新しいチーム(それぞれフェラーリとウィリアムズ)でのリズムを見つけるのにシーズンを通して苦労してきた。両者とも、ごく最近になってようやく安定と進歩の兆しを見せ始めている。

一方、角田にはそのようなアドバンテージはなかった。彼は、シーズン2戦目という早い段階でレッドブルの非常に厳しい環境に放り込まれ、その複雑なマシンや内部文化に順応する時間はほとんどなかった。
さらに困難を極めたのは、角田が事実上、フェルスタッペンのサポート役として扱われてきたことだ。フェルスタッペンは、新しいアップグレード、スペアパーツ、戦略的リソースに関して、明らかに優先権を持つドライバーである。レッドブルのヒエラルキーが定義する彼の役割は、対等に戦うことではなく、安定性を確保しミスを避けることだった。
当初自信過剰だった角田の苦戦は鈴鹿で直ちに始まり、スペインGPでは原因も理解できないまま予選最下位となり、おそらく最低点に達した。しかしそのどん底から彼は反撃を開始。今では安定してQ2に進出し、時折Q3にも進出、定期的にポイントを獲得している。最も注目すべきは、イモラ以降、クラッシュや自己起因の事故を一度も記録していないことだ。これはレッドブルが彼に課した最優先要求“マシンをクラッシュさせるな”を直接的に達成している。

メキシコGPでは、フェルスタッペンはアップグレードしたアンダーフロアを採用したが、角田は違った。それでも、角田はフェルスタッペンを動揺させたのと同じ不安定性により良く適応した。これは、不快な状況でも落ち着いていられるドライバーへと成長したことを示しており、レッドブルシステム内での長く苦しい修業期間の反映と言える。
レッドブルは判断を延期
最も注目すべき展開は、レース後にヘルムート・マルコ氏とメキース氏がレッドブルの2026年ドライバーラインナップ発表をアブダビGPまで延期すると確認したことにあった。マルコ氏の理由は予想通り現実的な“まずチャンピオンシップに集中する”というものだったが、メキース氏の発言にはニュアンスが込められていた。

「ユウキは前進している。我々に決断を急ぐ理由はない」と、メキース氏は語った。
これは、角田の成長が組織内で認識されつつあることを示す、これまでで最も明確な兆候だった。
自らの立場を再定義するドライバー
キャリアの大半において、角田の物語は他者によって綴られてきた。感情的なルーキー、ホンダの資金による座席保持者、使い捨てのつなぎ役。しかし、メキシコGPでは異なる姿を示した。自らの限界を理解し、役割を自覚し、静かに期待を上回るドライバーの姿だ。

レッドブルの内部政治というレンズを通して見られることはあっても、完璧を追求する組織において、角田が新たに身につけた落ち着きこそが彼の最も貴重な資質かもしれない。
最終戦での表彰台フィニッシュは、角田の成長を証明するだけでなく、レッドブルがシーズンを通して避けてきた問いを突きつけることになるだろう。“角田裕毅はついに、手放せないほどの実力者となったのか?”
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