ホンダ折原氏、アストンマーティンの現在地を語る-難所シルバーストンでのデプロイ予測と新型PUへの期待値
イギリスGPの木曜日、伝統のシルバーストン・サーキットに隣接するアストンマーティンのパドックで、ホンダ(HRC)の トラックサイド・ゼネラルマネージャー折原伸太郎氏がメディアの合同取材に応じた。
現在、グリッド最後尾に沈むという未曾有の苦境にあるアストンマーティン・ホンダだが、トラックサイドのエンジニアたちは極めて冷静に課題を見つめ、次なる反撃の機会を窺っている。前戦オーストリアGPでのトラブルの真相から、このイギリスGPで直面している技術的難題、そして「夏」と噂されていたホンダPUのアップデート時期が「第13戦オランダGP」に確定した背景まで、胸の内を語った。
オーストリアでのストロールのトラブル:原因は「冬の振動」とは別問題
まず話題は、前戦オーストリアGPの決勝でランス・ストロールのマシンを襲ったトラブルへと及んだ。
「(オーストリアでは)バッテリーのデータに異常が見られたため、マシンをガレージに戻した。その後、バッテリーをミルキートンのHRCファクトリーに戻してチェックを行い、何が起こったのかはすでに理解している。
バッテリー内部でトラブルが発生したのですが、これは開幕前テストに我々を苦しめた『振動にまつわるトラブル』とは別のものであることが確認されている。つまり、違う問題だ。これに対して今回のシルバーストンには、耐久性を上げるための対策を持ち込んで臨んでいる」
また、第9戦バルセロナGPでフェルナンド・アロンソのマシンに起きた問題との関連性については、「スペインでの対策が十分ではなかった可能性も含め、近しい問題ではないかと考えて現在確認中」とした。
シルバーストンの難題:高速コーナーでの「一貫性」を奪うスロットル予測
前戦オーストリアでは、アロンソが予選後にマシンのドライバビリティと一貫性についてポジティブなフィードバックを残し、決勝でもその一貫性は維持されていたという。しかし、折原氏は「オーストリアが良くても、ここで同じコメントが出るかは走ってみるまで分からない」と表情を引き締める。その理由は、シルバーストン特有の高速コーナーがもたらすエネルギーマネジメントの難しさにある。
「一番大きいのはコーナーの特性の違い。ドライバーにとって最も重要なのは『一貫性』であり、毎ラップ同じデプロイメント(電気エネルギーの放出)パターンであってほしいわけだ。オーストリアは『どこでアクセルを踏んで、どこで抜くか』が予想しやすい。
しかし、ここシルバーストンは、高速コーナーをどれくらいのスロットルで抜けるかを事前に予想するのが非常に難しい。我々が用意したデプロイプランとドライバーの実際の踏み込み方が想定からズレると、システムが違うデプロイパターンを呼び出してしまう。これがドライバーには『一貫性がない(乗りにくい)』と感じられてしまう。予選でドライバーが最後目一杯攻め込んだ時のテンションや、決勝でのタイヤのタレ、天候によるグリップ変化を見越してデータを合わせ込む必要がある」
超高速のコプスを全開で抜けることは現代のパッケージでは厳しく、マゴッツ〜ベケッツ〜チャペルといったセクションでのアクセルの加減のバラつきが、ストレートでの「エネルギー切れ」に露骨に影響する。鈴鹿サーキットと同様、このエネルギー切れ現象を完全に回避することは現段階では難しいという。
今回はスプリントフォーマットのようにフリープラクティスでの合わせ込みの時間が貴重となる中、シルバーストンに構えるアストンマーティンのファクトリーでドライビングシミュレーターを駆使し、実車(FVR)との差分をいかにセッション間で埋められるかが、今週末の最大のチャレンジとなる。
新型PUの投入はオランダGPに決定。車体・エンジン両面でのキャッチアップへ
そして最も注目すべきは、今シーズン後半に向けたホンダPUのアップデート計画だ。これまで「夏」と表現されていた投入時期について、折原氏は明確に「オランダGP」という具体的なターゲットを口にした。
「ベンチテストが進み、明確に目処が立ってきたため、オランダでの投入という具体的な表現ができるようになった。オランダGP以降は、パフォーマンスを向上させた新しいパワーユニットを投入するので、今よりラップタイムは速くなる想定だ。
ただ、F1の世界ですから相手もどんどん進化している。自分たちの上げ幅がどこまで相手をキャッチアップできるかはやってみないと分かりません。一回のアップデートでいきなりトップ争いができるほど甘い世界ではないですが、現状の最後尾という位置からは脱却し、しっかりとポジションを争える場所に戻ることを期待している」
アストンマーティン側もハンガリーGP前後で大きなステップを踏むことが分かっており、車体とPUの両面から巨額のアップデートが合流することになる。
「車体側も大きなステップを持ってくると聞いていますし、我々のPUもベンチでの数字を見る限り、ある程度の大きなステップを持ち込める。あとは、その2つが合わさった時に、いかにサーキットでセッティングを100%合わせ込めるか。そこが非常に難しいチャレンジになる」
最後に、欧州を襲う猛暑について問われた折原氏は、「エンジンサプライヤーとして、暑いことを歓迎することは絶対にない。悪さしかしない」と即答。オーストリアのような30℃を超える環境では、PUを冷却するために「ドライバーにストレートでわざとアクセルを戻してもらい、負荷を下げてもらうようお願いせざるを得ない」という現場の苦しい内情も明かした。
ホームレースの地でシミュレーターと実車のデータ統合を急ぐアストンマーティン・ホンダ。オランダGPでの“心臓部”刷新に向け、彼らの長くタフな反撃の序章が、ここシルバーストンから始まる。
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