ホンダ折原氏が語る2026年型PUの構造的課題と、次戦オランダでの“新エンジン”投入への構想
2026年レギュレーション導入以降、パドックのエンジニアたちを最も悩ませているのが、全出力の約50%を占める「電気エネルギーの回生とデプロイメント」の最適化だ。特に超高速ストレートと過酷な登り坂が続くスパ・フランコルシャンでは、各メーカーのPU性能の差がシビアに浮き彫りになる。
アストンマーティンにパワーユニットを供給するホンダ(HRC)のトラックサイド責任者を務める折原伸太郎氏は、金曜・土曜のセッションを終え、現在のホンダPUが抱える課題と、ハイブリッドシステム特有の連鎖反応について技術的な核心を明かした。
2026年型PUの罠-ICEのパワー不足がバッテリーを“侵食”するメカニズム
ドライバーからは「エネルギーが不足している」「パワーが足りない」という一貫した要求が出ている今週末。折原氏は、ファンやメディアが誤解しがちな「電気の使い方」と「内燃エンジン」の切っても切れない因果関係を分かりやすく解説した。
350kWを発揮するMGU-Kの電力をどこでどう配分するかは、ラップタイムに直結する。しかし、そもそも「ベースとなるエンジンの馬力が足りていない状態では、いくら電気の割り振りを最適化してもトップには届かない」という。
「根本的なメカニズムとして、エンジンの馬力が足りていない時、ドライバーがまだアクセルを全開にしていないコーナーの立ち上がりなどにおいて、マシンは出力を補うためにMGU-Kからバッテリーの電気を“持ち出して”駆動力を保証してあげる必要がある。
本来であれば、ストレートなどの『全開区間』で長く使いたいはずの貴重なバッテリーが、ブーストが立ち上がってくるまでの補正用として手前で消費されてしまう。その結果、ストレートでの電気の放出期間が短くなってしまい、ドライバーは直線でパワー不足だと感じることになる。
つまり、ICE(内燃エンジン)のパフォーマンスが向上すれば、立ち上がりでの電気の持ち出しが減り、結果としてストレートで使えるバッテリー量を自動的に節約できるようになる。これが今、我々が最も必要としているサイクルだ」
バッテリーの信頼性とエネマネ最適化-100分の2秒を削る未来への投資
前半戦のバルセロナやオーストリアで発生したバッテリー関連の信頼性トラブルについて、折原氏は「解析の結果、バルセロナなどの暑さやコースレイアウトの影響ではない」と否定。イギリスGPで投入した対策によって方向性は正しいことが確認されており、現在はファクトリーでハードウェアおよびオペレーションの両面から慎重に見極めを行っている段階だという。
現状、トップから約1秒のギャップがある中で、エネマネの最適化によって削れるタイムは「100分の2秒〜30ミリ秒」の世界だ。ベースのエンジンパワーの差に比べれば小さく見えるが、折原氏はこの作業の重要性を強調する。
「いまエンジン側で離されてしまっている状況では、この20〜30ミリ秒を最適化したところで順位を劇的に変えることはできない。しかし、将来的にエンジンのパフォーマンスがライバルと同等レベルまで上がってきた時、この100分の2秒を埋めるエネマネの熟成が、確実に大きな『差』を生み出すと考えている。そのためのツールやシミュレーションの改善を前半戦で集中してやってきた」
次戦オランダGPで待望の「新エンジン」投入へ
ホンダは次戦オランダGPにおいて、パフォーマンス向上を狙った待望のニューエンジンを投入することを明言した。アストンマーティンが現在置かれている厳しい位置からの脱却を目指す。
「次のオランダで新しいエンジンを投入し、パフォーマンスを上げる予定だ。ただし、これを入れればいきなりトップコンペティターに躍り出られるというものではない。ある程度のステップを踏みながらの開発になる。
我々の目標は、まずはしっかりと激しい中集団の上位争いへ戻ること。そして、前半戦を通じて改善してきたエネマネの最適化ツールを使い、新しい車体と新しいエンジンが来た時に、いかに早く最適なウィンドウにオペレーションを乗せられるか。そこが重要になってくる」
2026年型マシンの操縦性-ドライバーの“一貫性”がマッピング最適化の鍵
また、予選後に他チームの若手ドライバーから「アクセルを急に抜くとデプロイの動きがおかしくなる」といった声が上がった件について、現在の複雑な制御規則特有の難しさを語った。
現行レギュレーションでは「この区間では電気を何kW出していい」「このステップで走る」というマッピングが事前に厳密に組まれている。そのため、ドライバーが後ろとの間隔を空けるためにゆっくり走り、そこから突発的にアクセルを全開にするなど「意図しない走り方」をすると、システム側が想定外のデプロイパターンと認識し、思った通りにパワーが出なくなる現象が起きやすいという。
「ドライバーが一貫性のあるドライビングをしてくれた方が、それに対するマッピングの最適化プロセスの効率は間違いなく良くなる。走らせ方が毎回バラバラだと、どのポイントにデータを合わせるべきかの見極めが非常に難しくなるからだ」
ハードウェアのパワー不足をデータと最適化で補いながら、爪を研ぎ続けてきたホンダのトラックサイド陣。次戦オランダでの新エンジン投入によってベースパワーが底上げされた時、彼らが前半戦で耐え忍びながら磨き上げた「エネマネの真価」が100分の数秒の差となって牙を剥くはずだ。
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