【独占インタビュー】レーシングブルズが挑む“再構築”─バイエルCEOが語る、F1新時代に向けた革新の裏側とは

ピーター・バイエル氏が2023年4月にVisa Cash App Racing Bulls（レーシングブルズ）へ加わった時、彼が向き合ったのは、謙虚な歴史を持つチームだった。フランツ・トスト氏はファエンツァでの創成期を振り返り、ジャンカルロ・ミナルディ氏がかつて80名ほどのスタッフと小さな施設だけでチームを運営していたと語る。だが今や、その組織は約800名規模にまで成長し、最先端のF1拠点として稼働するまでになった。

レガシーを受け継ぐCEOへの移行

バイエル氏にとって、レガシーは背を向けるものではなく、受け継ぐべき財産だった。トスト氏は今もレースの週末になるとWhatsAppで短い激励メッセージを送り、すべてのセッションを欠かさずチェックしているという。「彼は家族の一員だ」と、バイエル氏は語る。

バイエル氏のCEOへの移行は驚くほど順調に進んだ。トスト氏は半年をかけて、チーム内部の仕組みからF1特有の政治、さらにはレッドブル独自の文化まで、細かく丁寧に引き継いでくれたという。そして2024年1月1日、バイエル氏が「鍵を手渡された」と表現する瞬間が訪れ、真のバトンが渡された。

そこで彼がまず驚いたのは、任された裁量の大きさだった。レッドブルのエコシステムには決まった型がなく、新たなアイデンティティを築き、戦略を練り、自分のやり方でチームを形づくることが許されていたのだ。そこからの1年間は基盤づくりに充てられ、文化の定着、組織再編、リーダーシップの確立が着実に進んだ。バイヤー氏によれば、2024年末にはチーム全体の歯車が噛み合い始め、2025年の初頭にはレーシングブルズそのものの個性にも変化が見え始めたという。

リバリー改革でクリエイティブな進化

変革は急進的に押し進めるのではなく、内側を丁寧に掘り下げるアプローチだった。基盤が整った段階で、視点は“チーム文化”へと移り、クリエイター向けプラットフォームの立ち上げなど、ビジュアルアイデンティティも新たな声を映し出す存在へと進化していった。かつては技術的要件に過ぎなかったリバリーは、いまや“クリエイティブな文化”へと姿を変えたのである。

その象徴となったのがラスベガスGPだ。チームはCash AppとVisaのメタリックカードから着想を得たホログラフィック・リバリーを披露。照明によって色が変化する大胆なデザインは現地ファンの注目を奪い、レッドブルのマックス・フェルスタッペンが優勝した週末にもかかわらず、最も美しいリバリーとして多くの票を集めた。

レーシングブルズにとって、これらの取り組みは決して一過性のギミックではない。リバリープログラムはすでにチームのDNAとして根づき、ブランディングにとどまらず、パートナーとともに“物語”を紡ぐ領域へと発展している。TUDORとの限定モデルや、HUGOと手がけたラゲッジや限定ウェアなど、F1チームが表現できる幅はかつてないほど広がった。

実際に、シルバーストンではアーティストが初めてマシン向けに特注デザインを制作し、マイアミでは大胆なマゼンタを採用。オースティンではスポーツと音楽、カルチャーを融合させる取り組みも行われた。狙いは奇抜さではなく、今という“時代との接続”だ。

世界各地で変わるアプローチとファン層

バイエル氏によれば、米国、中国、ブラジル、ラテンアメリカでは特にファン層の変化が顕著だという。新しいファンは若く、女性比率も上昇。現在、レーシングブルズはグリッドで最も若いファン層を持ち、男女比も最も均衡したチームになっている。

そのアプローチは“参加型”だ。ブラジルでは若手アーティストがガレージの壁を描き、SNSコンテンツは新進デザイナーと共同で制作される。バイヤー氏は、こうした取り組みの目的を「伝統的に閉ざされがちだったスポーツを開き、若者が“観るだけでなく関わる”ことを可能にすることだ」と説明する。

未来への野心と2026年の新展開

視線を先へ向けると、チームの視野はすでにラスベガスのネオンの彼方へと広がっている。2026年のレギュレーションでは、新エンジンやパワートレイン、技術構造の刷新により、F1の競争構図が大きく変わる見込みだ。これまでミッドフィールド上位を狙ってきたレーシングブルズは、今後は“常にトップ5を脅かす存在”へと野心を引き上げようとしている。

ドライバー育成は、これまでと変わらずレッドブルグループの使命の中心に据えられている。若手と経験者を組み合わせることで、育成と保護、そしてチームとしての継続性を両立させる方針だ。

デトロイトで幕を開ける次章

次の章の始まりとなるのは、デトロイトだ。2026年の発表会はすでに構想が進んでおり、開催地にはレースの街ではなく、テクノで有名なこの都市が選ばれる予定だ。バイエル氏はラスベガスへ向かう機内で観たドキュメンタリーをきっかけに、その音楽文化のルーツに強く惹かれたという。レーシングブルズにとってデトロイトは、“機械の精密さが文化的エネルギーへと変わる”象徴的な舞台なのだ。

かつてミナルディの質素な工房からスタートしたチームは、いまや単なるレースチームにとどまらず、クリエイティブなエコシステムそのものを形づくりつつある。次の会議へ向かうバイエル氏の表情には、誇りと確かな期待が入り混じっていた。

「マシンにはまだ十分にスペースがある」と彼は言う。

しかし、F1人気の拡大とともにレーシングブルズの注目度が高まる今、そのスペースが埋まるまでに、そう時間はかからないかもしれない。

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