フェラーリ、オーストリアに「新型エンジン」を前倒し投入も“過度な期待”を急ブレーキする理由
前戦バルセロナGPでルイス・ハミルトンが執念のフェラーリ移籍後初勝利を挙げ、チーム全体が歓喜に沸くフェラーリ。彼らは今週末の第8戦オーストリアGP、レッドブル・リンクに、さらなる武器となる「新型パワーユニット(PU)」をリヤに搭載して乗り込んでくる。
マクラーレンのランド・ノリスが「フェラーリの車体(コーナー性能)はグリッド最高。もしエンジンまで進化したら一強になる」と警戒を強めた直後、その言葉が現実となるかのようなアップデートだ。しかし、チーム代表のフレデリック・バスール氏をはじめとするフェラーリの首脳陣は、外部からの過度な期待を明確に牽制し、冷静沈着な姿勢を崩していない。
「バルセロナでのポジティブなパフォーマンスのおかげで、僕たちは大きな自信を持ってオーストリアへ向かう。ただし、まだ多くの課題が残されており、自分たちの仕事だけに集中し続けなければならないことも痛いほど分かっている」と、バスール代表は週末を前に語った。
バスール代表「ハミルトンの初勝利でも、僕たちの進め方は1ミリも変わらない」
ハミルトンがフェラーリにもたらした今季初勝利、そしてハミルトン自身にとっても新天地での記念すべき1勝となったが、バスールは「一喜一憂する段階ではない」と釘を刺す。
「バルセロナでの勝利によって、僕たちのグランプリへのアプローチやマインドセットが変わることはない。今週末もシーズン開幕から続けてきたのと同じ姿勢で臨む。つまり、コース上のパフォーマンスからピットウォールでの戦略決定に至るまで、あらゆる面で『クリーンなレース(ノーミスの週末)』を遂行することだ。
グランプリは毎週末、全く異なるストーリーが展開される。だからこそ、僕たちは一戦一戦(レース・バイ・レース)を堅実に戦っていくアプローチを続けていく」
新レギュレーション「ADUOルール」を適用。ただしPU責任者は「小さな一歩」と強調
今回のフェラーリの新型エンジン投入の背景には、2026年の新技術規則に盛り込まれた「ADUOルール」が存在する。これは、ICE(内燃機関)の出力測定においてトップ(レッドブル・レーシング)に対してパフォーマンスの遅れが認められるPUメーカーに対し、性能均衡を目的とした開発・改善アップデートを特別に許可する救済措置だ。
フェラーリは、パワーの差が明確にラップタイムに直結する超高速サーキット、レッドブル・リンクでこの新スペックを実戦投入する。これでマニファクチャラー首位のメルセデスに長期的なプレッシャーをかける準備が整ったかに見えるが、PU部門のテクニカルディレクターを務めるエンリコ・グアルティエリは、期待値を下げるように慎重なコメントに終始した。
「スピルバーグに持ち込むアップデートは、比較的規模の小さいものだ。この数週間のファクトリーでの開発プログラムの成果を、いち早くサーキットへ反映させた結果に過ぎない。
はっきりと言っておくが、このアップデートは勢力図を一変させるような劇的な大ジャンプ(大きな一歩)ではないし、これ単体で現時点の戦闘力の序列がひっくり返るようなものではない。しかしこれが意味するのは、チームとテクニカルパートナーの姿勢そのものだ。僕たちは常に攻めの姿勢を崩さず、パッケージ全体を向上させるあらゆる機会を逃さないということだ」
経験豊富なエンジニアであるグアルティエリは、現在の厳しい開発制限(ホモロゲーション)における現実を語る。
「これほど競争が激化している選手権において、たった一つのアップデートで勢力図が根本から変わると期待するのは非現実的だ。現在の開発・ホモロゲーション規制の下ではなおさらね。
パフォーマンスというのは、ハードウェアの変更だけでなく、持ち込んだパッケージをレースごとにどれだけ効果的に最適化できるかによって、段階的に積み重ねていくものなんだ」
跳ね馬が施した今回のエンジン改良は、単なる“気休め”なのか、それともメルセデスを切り崩す決定打となるのか。その真の答えは、土曜日の予選におけるストレートでの最高速度(トップスピード)とラップタイムが証明することになる。
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